劫初ごうしょ)” の例文
私の劫初ごうしょ以来の罪業ざいごうを幾分なりとも軽くしてやろうと思召おぼしめして、かりに私の身から一切の持物を取っておしまいになりました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
目をれば遣るほど計り知れぬ劫初ごうしょにきざしているといってもなお及ばない。生は限りなく連続する。鶴見は、今そこに輪廻りんねを観じているのである。
劫初ごうしょから末代まで、此世に出ては消える、あめした青人草あおひとぐさと一列に、おれは、此世に、影も形も残さない草の葉になるのは、いやだ。どうあっても、不承知だ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
僕は独逸文学のことは好く知らずにしまうが、その中には日出写生のいい文章は幾つかあるであろう。山上の美しい日の出は、いわば劫初ごうしょの気持であり、開運のしるしでもある。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
劫初ごうしょ以来人類の脚が、未だ触れたこともない岩石と、人間の呼吸が、まだ通ったことのない空気とに、突き入るということは、その原始的なところだけでも、人間の芸術的性情を
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
劫初ごうしょ以来人の足跡つかぬ白雲落日の山、千古斧入らぬ蓊鬱おううつの大森林、広漠こうばくとしてロシアの田園をしのばしむる大原野、魚族群って白く泡立つ無限の海、ああこの大陸的な未開の天地は
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
かれが目的を立てる時は必ずやすでにかれは大劫初ごうしょからそれを目的とせねばならぬ様に運命づけられている。かれの目的とはただかれに与えられた運命の追認的ホンヤクであり、自己欺瞞である。
錯覚自我説 (新字新仮名) / 辻潤(著)
それはもう、劫初ごうしょ以来、人類の世界に、無数に繰返された悲劇である。そうして恋の敗北者が底知れぬ苦悩の淵につき落され、そのために死を選ぶに至ることも、同じく無数に繰返された喜劇である。
ある自殺者の手記 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
一寸でも頭を出すと、とかく口の端にかかる、あるいは嫉みのつちで、出かけた杭がたたきのめされるが、この辺の山は海抜いずれも一万有尺、劫初ごうしょの昔から間断なく、高圧力を加えられても
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)