判然はっき)” の例文
……それから私は何をしたか判然はっきり自分でも覚えていない。とにかく私はダンチョンと一緒に土人に追われながら逃げていた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おそらくその苦しさは、大きな広告のように、私の顔の上に判然はっきりした字でり付けられてあったろうと私は思うのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そう判然はっきりした事になると私にも分りません。しかし危険はいつ来るか分らないという事だけは承知していて下さい」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いかさま右の二の腕に上下判然はっきり二十枚の歯形が惨酷むごたらしく付いている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日は明かに女の頸筋くびすじに落ちて、かどだたぬ咽喉のどの方はほの白き影となる。横から見るときその影が消えるがごとく薄くなって、判然はっきとしたやさしき輪廓りんかくに終る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
口の居住いずまいくずるる時、この人の意志はすでに相手の餌食えじきとならねばならぬ。下唇したくちびるのわざとらしく色めいて、しかも判然はっきと口を切らぬ瞬間に、切り付けられたものは、必ず受け損う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしどういう意味で? どういう意味で同情者になって下さるつもりなんですか、この場合。私は迂濶うかつものだから奥さんの意味がよくみ込めません。だからもっと判然はっきり話して下さい
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
心を判然はっきと外にあらわさぬうちは罪にはならん。取り返しのつくなぞは、法庭ほうていの証拠としては薄弱である。何気なく、もてなしている二人は、互に何気のあった事を黙許しながら、何気なく安心している。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)