冷澹れいたん)” の例文
人生は果してそんなものであろうかと思うと同時に、或は自分が人間一般の心理的状態をはずれて性欲に冷澹れいたんであるのではないか
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
荒芽山あらめやま畔路はんろふたまたを成す 馬を駆て帰来かえりきたる日かたぶき易し 虫喞ちゆうしよく凄涼夜月に吟ず 蝶魂冷澹れいたん秋花を抱く 飄零ひようれい暫く寓す神仙の宅 禍乱早くさか夫婿ふせいの家 さいわひに舅姑きゆうこの晩節を存するあり 欣然を守つて生涯を
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
近所には木村に好意を表していて、挨拶などをするものと、冷澹れいたんで知らない顔をしているものとがある。敵対の感じを持っているものはないらしい。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
むかし世にもてはやされてゐた人、いま世にもてはやされてゐる人は、どんな事を言つてゐるかと、たとへば道を行く人の顔を辻に立つて冷澹れいたんに見るやうに見たのである。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかし世間の男のように、自分はその為めに、女房に冷澹れいたんになったとか、苛酷になったとか云うことはない。むしろこれまでよりは親切に、寛大に取り扱っている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
知らぬ人の冷澹れいたんな目で見ても、同じように見えるに違いない。早い話が、あの店の上さんだって、若しあの二人に対して物を言うことになったら、旦那様奥様と云っただろう。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
渡辺はなぜこんな冷澹れいたんな心持になっていられるかと、みずから疑うのである。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大村の詞はひどく冷澹れいたんなようである。しかしその音調や表情にあたたかみがこもっているので、純一は不快を感ぜない。聖堂の裏の塀のあたりを歩きながら、純一は考え考えこんな事を話し出した。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
更に一歩を進めて考えて見れば、果して結婚前に dub を受けたのを余計だとするなら、或は結婚もしない方が好かったのかも知れない。どうも自分は人並はずれの冷澹れいたんな男であるらしい。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
己は女房にどうかして夫が冷澹れいたんだと思わせまい、疎まれるように感ぜさせまいとしているのに、却って己が内にいる時の方が不機嫌だとすると、丁度薬を飲ませて病気を悪くするようなものである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして自分の冷澹れいたんなのを、ややいぶかるような心持になった。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)