公方様くぼうさま)” の例文
旧字:公方樣
長崎ではお役人の目がやかましいから、九州の沖で日本の船に積換え、米や炭の荷に交ぜて、公方様くぼうさまお膝元へ持って来るに違いない。
勝手になさい。わたしの体に指でも差してごらん、わたしもただは置かないが、この近所には、わたしの知合いで、公方様くぼうさまの兵隊を指図を
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なんでも、石州口の方じゃ、浜田の城も落ちたといううわさです。おまけに公方様くぼうさまは御病気のようなうわさも聞いて来ましたよ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おれは公儀へ召されることになるそうだ。それが近い事で公方様くぼうさまの喪が済み次第仰付おおせつけられるだろうということだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
泰平つづきの公方様くぼうさまの世だ。その新年の盛儀である。大手下馬げばさきは掃ききよめられて塵一本もとどめない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
老「いや此の辺はお代官もちで、公方様くぼうさまから沙汰がえば手え入れられねえでがす」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
天下が騒々敷そうぞうしい、ドウカ明君が出て始末を付けて貰うようにしたいとえば、れは公方様くぼうさまないがしろにしたものだ、すなわち公方様を無きものにして明君を欲すると所謂いわゆる謀反人むほんにんだと云う説になって
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「今度、お情け深い江戸の公方様くぼうさまが、哀れな俺たちにお救い米を下さる、だからこうしてそのお救い米をいただきに上るんだ」
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昨年三月より七月へかけ、公方様くぼうさま還御かんぎょにあたりまして、木曾街道の方にも諸家様のおびただしい御通行がございました。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昨晩、江戸城内を抜け出して来た七兵衛の頭では、公方様くぼうさまは決してにくむべきお方ではなく、むしろかわいそうなお方である。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたしはあの公方様くぼうさまの話を思い出すと、涙が出て来ます。何にしろ、あなた、初めて異国の船が内海に乗り入れた時の江戸の騒ぎはありませんや。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
桝田屋の小左衛門さんもそれには震えてしまって、公方様くぼうさまの御召馬で悪ければ、そんならなんと申し上げればよいのですかと伺いを立てたそうです。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
当時惰弱の公方様くぼうさまに任せておいては、多分、その一つさえ元も子も無くなってしまやしないかと、こう思いますから、そいつを一つ、ちょろまかして
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
公方様くぼうさまの天下が亡びて、江戸中が灰になる……鐚なんぞは、左様なことを考えたこともございません、考えることもできませんな、でございますから
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
拵える奴もなかろう、拵えたって世間へ持って出せるものではねえが、何しろ今のような時勢だから、公方様くぼうさまの悪口でも何でもこうして版行はんこうになって出るんだ
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何しろ公方様くぼうさまのお膝元で天誅や辻斬がやたらにあって、それをお前、役人が滅多めったに手出しができねえんだからな。それでまた片一方には貧窮組というのがあるんだ」
「そんなことを言わずに、お逃げなさい、あのけいのよい東海道を下って、公方様くぼうさまのお膝下ひざもとの賑かさをごらんなされば、わたしのことなどは思い出す暇はありやしませんよ」
公方様くぼうさまは上方へおいでになっているし、江戸はお留守で上方が本場のような時勢になっているから、一番、こっちで、またいたずらを始めようという出来心に過ぎますまい。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
罰金四十四万両——拙者共は身ぶるいがするほどの金でござんさあ、この罰金四十四万両というものを、薩摩っぽうが毛唐を二三人斬った罰金として、公方様くぼうさまから毛唐の方へ納めなけりゃならねえ
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
先生は少しもひるまず、最後までそれを説伏するの意気込みは勇ましいもので、自分にしてからが、上様だとか、公方様くぼうさまだとかいう口の下から、現在自分が世話になっている大切の薬籠持やくろうもちに対しては
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)