入魂じっこん)” の例文
熊谷大膳は嵯峨の二尊院に隠れていたところへ、かねて入魂じっこんにしていた前田徳善院の家老の松田勝右衛門と云う者が、十五日に訪ねて来た。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さて、そのブル公が今しけたたましく吠え始めた。ブル公は人を見たら泥棒と思う。入魂じっこんでないものは念の為めに一応吠える。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのうえ本人は知るまいが妙子の兄弟がその後大学でお友達の叔父さんの学生になり私宅へも入魂じっこんに出入りしている。
結婚 (新字新仮名) / 中勘助(著)
しかるに、彼の右側には、名士が、入魂じっこんのものに挨拶をし、差し出される手を握り、一口二口、機智に富んだ、または情をめた言葉を投げかけていた。
「剣を取って向う時は、親もなく子もなく、弟子も師匠もない、入魂じっこんの友達とても、試合とあれば不倶戴天ふぐたいてんの敵と心得て立合う、それがこの竜之助の武道の覚悟でござる」
介錯は入魂じっこんの山伏の由に候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
去春白井備後守を差下さしくだし如此之案紙かくのごときのあんしもって、誓紙を沙汰し、入魂じっこんいたすべき旨仰せけるに因って、書き上げたる旨を、石田治部少輔を経て言上ごんじょうに及び
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
若いのを誇りとしていた私は同僚中一番の老人と特別入魂じっこんになる機縁を持っていた。最初からのことを思い合せると、宿命プリデスチネーションというものを否定出来ない。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この空気によって見ると、岩倉と大久保の間は入魂じっこんになっているが、品川は初対面であるらしい。特に大久保が今日、品川を帯同して、岩倉に紹介がてら推参したものと思われます。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と冗談のように仰有おっしゃる。殊に先日の神沢中将は入魂じっこんの間柄だったから、ひどく答えたようだった。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
而も三成の命をふくんで細作さいさくとなるべく志した行者順慶、当時の下妻左衛門尉は、此の圓一と入魂じっこんであったのを幸いに、彼の盡力に依って短時日の間に当道の瞽官こかんを得たと云う。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
船大工の与兵衛老爺おやじとこの船の船頭の助蔵とは、入魂じっこん間柄あいだがらと見えました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)