入夫にゅうふ)” の例文
小身であっても武家奉公をし、医を志した馬琴である。下駄屋の入夫にゅうふを嫌って千蔭ちかげに入門して習字の師匠となった馬琴である。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
弥右衛門のあとへ、むことして入夫にゅうふした筑阿弥は、ただ働く人だった。一年たたないうちに、家計もだいぶ直って、える日はなくなった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二、三年ののち、久しく寡婦やもめでくらしていた女髪結に若い入夫にゅうふができた。この入夫が子供嫌いでややもすればおたみを虐待するようになった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それ以外には入聟いりむこおよび入夫にゅうふの制、是は女しかおらぬ家を見つけて、そこへあまったヲンヂたちを配るのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これを調べたいと思召したが、夫婦とも死んで居ります事ゆえ、吟味の手懸りがないので、深く心痛いたされまして、漸々よう/\に幸兵衛が龜甲屋お柳方へ入夫にゅうふになる時
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
晩年磐梨いわなし郡某社の巫女みこのもとに入夫にゅうふの如く入りこみて男子二人を挙げしが後長子ちょうし窃盗せっとう罪にて捕へられ次子もまた不肖の者にて元義の稿本抔こうほんなど散佚さんいつして尋ぬべからずといふ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
旅から旅を歩いているうちに、宮内は加賀国かがのくに小松こまつで豊かなくらしの家へ入夫にゅうふした。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「ほんとに、お徳さんは好いているならば、あのお武家と一緒になったらどうでしょう、お武家さんの方でもいやでなければ、みんなで取持ってお徳さんに入夫にゅうふをさせたらどうでしょう」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかしおれには人の情をもてあそぶことはできない、親切にされれば親切にほだされるわい。いっそ、おれは、あの女のもと入夫にゅうふして、これから先をあの女の世話になって、山の中でちてしまおうか
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
娘があれば年が違ってもむこを取る。後家には出来る限り入夫にゅうふをする。こういうことは必ず家族関係を複雑にし、年老いたる者を不幸にする種であったが、それすらも避けることが許されなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかる処後家の方にても不身持の事につき、親戚中にてもいろ/\悶着もんちゃく有之候が、万一間違など有之候ては、かへつて外聞にもかかはり候事とて、結局得念に還俗げんぞく致させ候上、入夫にゅうふ致させ申すべきおもむき
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)