先以まずもっ)” の例文
ここには、紀文の時のように、吾勝ちに争う幇間たいこ末社まっしゃたぐいもなし、梅忠の時のように、先以まずもって後日のたたりというものもないらしい。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
先以まずもって御主人様のお遺書かきおき通りに成るから心配するには及ばん、お前は親のかたきは討ったから、是からは御主人は御主人として、其の敵をかえし、飯島のお家再興だよ
勧業債券は一枚買って千円も二千円もになる事はあっても、掘出しなんということは先以まずもってなかるべきことだ。悪性あくしょうの料簡だ、劣等の心得だ、そして暗愚の意図というものだ。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
先以まずもって、財物の無心に参ったのではござらぬという安心を、先方に与えなければならないほど、神尾の立場は気が引ける。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その型の美しさ——すべての芸道において、型の神妙に入ったものは、先以まずもって美しいというよりはいいようがない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、がんりきの身になってみると、着物を着るよりも、帯をしめるよりも、眼に見える醜態を隠してもらうよりも、先以まずもって、一杯の水が欲しかったのでしょう。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
先以まずもって、人間の仕事で、これより最初の、これより正しい仕事はないと言ってもよろしうございます。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すやすやとおやすみの殿のお寝息をうかがいますると、やれ御無事でいらせられたかと、昨日来の恨みはもろくも消えて、先以まずもって嬉し涙にきくれたような次第でございます
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
されば我々は、寝物語の里を経て、ついうかうかとこれまで迷い込みましたのは、古関の清興は後まわしと致し、先以まずもって小関の人訪わぬ昔をとぶらわばやとの寸志でござった
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
先以まずもって、物の数というやつは、たとえ千万無量の数がありましょうとも、これを大別して丁と半とにわける、丁でない数は即ち半、半でない数は即ち丁、世間に数は多しとも
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
先以まずもっ磨針峠すりはりとうげからこの山の下三里がところまで押しかけて、そこでかたまっている一まきが、こいつが剣呑けんのんだということを御承知願えてえんでございます、そいつがみんな胆吹へ
かくて、臨川寺の方丈の上で、道庵先生と、僧形そうぎょうの御同職(仮りに)とは相対して、酒をくみかわしながら、寝覚の床をつるべ落しにながめて閑談をはじめました。僧形の同職が先以まずもって言いけらく
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この名が、先以まずもって、筆端に押迫って来る。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)