さいわ)” の例文
座敷はその間に片づけられ、隠居は一服いつけて二人を待っていた。さいわいに日が照って、庭に向いた障子は閉めきるほど寒くは無かった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
皆目かいもく聞き及ぶところがございませぬ。拙者は、源内殿こそご承知ではないかと存じて、お見かけ申したのをさいわいに、こうお邪魔申した訳でござるが」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生えているのに気がついたのをさいわい、おおげさに言うので、銭湯の帰り、散髪屋へ立ち寄ってあたってもらった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
それをさいわいに相当の礼金をつかわして断然その二人を解雇し、老婆にも小遣いとカタを与えて放してしまいました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
四人の身性みじょうについて、引ッ手繰たぐられるお手数だけでも省けるようにと思いまして、さいわい、四人のことなら、たいがいわれわれ二人が一伍一什いちぶしじゅう存じておりますから
どうにもくってゆけないので、連子でいいと云われたのをさいわい、大工さんと一緒になって住むから、勉強するのだったら、一部屋位は貸して上げると景気のいい話だ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「表に自動車がある、幌だから丁度さいわいだ。さあ皆あれへ乗って行こう‼」
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さいわい、衣子が食べさせてくれる。
淪落の青春 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
さいわい貴殿はあのものを生かして置いてくれたので、ひとたびこちらの原野——オヤフロの野と書きこまれているこの地点に立ち戻り、目ざすトウベツの山を見定め
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
おきんの所へ出はいりして顔見知りの呉服屋のかつが「うちの二階空いてまんね、蝶子さんのことでっさかい部屋代はいつでもよろしおま」と言うたのをこれさいわいに
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
さいわいにして目明しの万吉は、ちた所が浅瀬であったので、やッと河から這い上がってきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「われら迂濶うかつにも、両三日の糧食以外を携帯致しておりません、折あしくもこの悪路、明日さいわい所期の地に着したとしても、一両日の滞在は覚悟いたさずばなるまい」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
僥倖といえば、海上での風向きも、その日は、尊氏にさいわいしていて、「梅松論」には
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そううらむのはもっともだが、いよいよ阿波への帰国も近く、待てど暮らせどそなたからの返事はなし。ここで見かけたをさいわいに、是が非でもあの話を取り決めたいと思うたからじゃ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここでお目にかかったのをさいわいに、何よりはこの夏の頃お世話になったお礼を申し上げねばならぬ。殊に大津の半斎殿には、きついご迷惑をかけまして、蔭ながらお気の毒に存じている」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さいわいにも、彼は今、片方の脚が痛かった。少し無理に駈けたので、その脚は、まるで熔鉄ようてつの中へ踏みこんだように、かっかと熱を持って、一歩ごとに、激痛が足の裏から眼へ突き抜けて来る。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年の暮の火難から、怖ろしいあの夜の出来ごと——さいわいに、万吉に助けられて、この妻恋の家へ帰って正気づいたものの、お綱は今年ばかりは暮も元日も夢のように何も手がつかないのであった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、さいわいなことには、彼のそばには太田黒兵助がいた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「冥途の道でなくば、さいわいだが——」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)