便箋びんせん)” の例文
たいてい食事後に、いそいで便箋びんせんを出して書いているが、書きたい事はたくさんあるのだし、この手紙も二日がかりで書いたのだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は壕の中に入り、衣嚢いのうの中から便箋びんせんを出した。私は卓の前にすわり、便箋を前にのべ、そしてじっと考えていた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それに気づくと、明智はいきなり鉛筆を取って、テーブルの上の便箋びんせんに、老人にもハッキリ読める様な大きさで、スラスラとある簡単な文字を書いた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると翌日、病院へ使いに行った女中が妻の手紙を持って戻り彼に手渡した。小さく折畳んだ便箋びんせんに鉛筆で細かに、こまかな心づかいが満たされていた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
バラの花の浮き出た桃色の小さな角封筒に、中身はおかっぱの少女の顔の絵のついた便箋びんせんである。少女らしい感傷で、最初の一行目からもう涙の文章だ。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
白い封筒の中味はありふれた便箋びんせんでしたが、文字はまがいもない姫草ユリ子のペン字で、処々汚なくにじんだり、奇妙に震えたりしているのが何となく無気味でした。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
居室に帰ると、すぐ机の上に便箋びんせんをひろげた。そして、もう一度考えこんだあと、ペンを走らせた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
開けてみると上等な便箋びんせんに、今夜上野の観月橋かんげつきょうまで来て欲しいと綺麗きれい叮嚀ていねいに書いてあった。
Kは相手に手で断わりの合図をしたのだったが、このブロンドの大頭の男は物わかりがわるいので、その合図を間違って取り、便箋びんせんを振りながら危なかしいほどのとびかたでKのあとを追ってきた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
ベッドの上に正坐せいざして首をひねり、真剣に句を案じていたが、けさ、やっとまとまったそうで、十句ばかり便箋びんせんに書きつらねたのを、同室の僕たちに披露ひろうした。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
飯をこうと台所に行くと、僕の飯盒はんごうの上に一枚の便箋びんせんが置いてあって、なかなかの達筆で
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
また封書ではあっても、それがわずか二三枚の便箋びんせんに書かれたものであったとしたら、かれはその中から何か言外の意味を探ろうとして、くりかえし読んでみたかもしれなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一枚の便箋びんせんをミネは何度もよみかえした。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
お寺さんの買ったものは、白い便箋びんせんと、口紅と、(口紅は、お寺さんに、とてもよく合う色でした。)
俗天使 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「でも、意外だわ。こんな手紙。」マア坊は仔細しさいらしく首をひねり、便箋びんせんをひらいて眺めた。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
御用があるなら、この紙にちょっと書いて下さいまし、そう言って便箋びんせんと万年筆を差し出したのである。僕は、がっかりした。老大家というものは、ずいぶんわがままなものだと思った。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)