たかぶ)” の例文
恐るれば福を致し、或は侮り、或はたかぶれば災を致すのは、何事に於ても必ず然様有る可き道理である。古人は決して我等に虚言うそを語つて居らぬ。
震は亨る (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
たかぶった上気であった。足を踏んだり手をふったり口を鳴らしたりした。おまけに夏の陽が照りつけていた。暑さの刺激はじっとしていられないのである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
自分の思いだけで十分神経がたかぶっている時、しつこくしつこく云い出されると、伸子は怒りつけるのであった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「さあこう人心がたかぶっていましては……」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近來人皆勝つことを好むの心たかぶり、好んで詭詖の説を聽き、古往今來、萬人の行きて過たず、萬々人の行きて過たざるの大道路を迂なりとし、奮力向前して、荊棘滿眼
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
杉子たちのそばのその一かたまりとは別に、奥の鏡のところでかたまっていた連中の中から、唇のあたりをたかぶった正義感でつらしたような表情で比企ひきすげ子が叫ぶように云った。
杉子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
たかぶる氣もまた張る氣の子氣として生ずる。幸にして張る氣よりしてはやる氣を生ぜずに、暫らく張る氣を保ちて幾干時を經ると、張る氣の結果として幾干かの功徳を生ずる。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
渋つて聞きかぬる雨戸に一しほ源太は癇癪の火の手をたかぶらせつゝ、力まかせにがち/\引き退け、十兵衞家にか、と云ひさまに突と這入れば、声色知つたるお浪早くもそれと悟つて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
渋ってきかぬる雨戸にひとしお源太は癇癪の火の手をたかぶらせつつ、力まかせにがちがち引き退け、十兵衛うちにか、と云いさまにつとはいれば、声色こわいろ知ったるおなみ早くもそれと悟って
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
はやる氣になるのもある、散る氣になるのもある、弛む氣の生ずるのもある、たかぶる氣の生ずるのもある、凝る氣の生ずるのもある、すくむ氣の生ずるのも有り、舒びる氣の生ずるのも有る。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
鏡にむかひては髪の乱れたるをぢ、こがねを懐にすれば慾のたかぶるを致す習ひ、善くも悪くも其境に因り其機に随ひて凡夫の思惟しゆゐは転ずるなれば、たゞ後の世を思ふものは眼に仏菩薩の尊容を仰ぎ
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)