事実こと)” の例文
旧字:事實
きっと、お祖母さまの口から、途方もない事実ことが出るだろう。こんな良い人の、お祖母さまが悪魔になれるもんか
方子と末起 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
信吾は心に、ういふ連想からか、かの「恋ざめ」にかかれてある事実こと——いなあれを書く時の作者の心持、否、あれを読んだ時の信吾自身の心持を思出してゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それは三吉が姉と一緒に東京で暮した頃の事実ことで、ところどころ拾って読んで行くうちに、少年時代の記憶が浮びあがった。その頃は姉の住居すまいでもよく酒宴を催したものだった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いよいよこれから、こちらの世界せかいのおはなしになりますが、最初さいしょはまだ半分はんぶんあし現世げんせにかけているようなもので、矢張やは娑婆しゃばくさい、おききぐるしい事実ことばかり申上もうしあげることになりそうでございます。
地道な探索の筋合でまたなく彦を重宝にしていた事実ことも否定できない。
これはそう細いという方でもないが、何処どこ成島柳北なるしまりゅうほくの感化を思わせる心の持方で、放肆ほしいまま男女おとこおんな臭気においぐような気のすることまで、包まずおおわずに記しつけてある。思いあたる事実こともある。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)