乾干ひから)” の例文
土気色をしたせて枯木のように乾干ひからび切った埃及の木乃伊を連想する我らの木乃伊の概念を越えて、これはまたなんという美しい
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
公園には人影ひとかげがなかった。乾干ひからびた電車の音だけが夜の静寂せいじゃくを破っていた。空には星、地にはアーク灯、それのみが静かに輝いていた。
こうお種は言いかけたが、興奮のあまり声が咽喉のど乾干ひからび付いたように成った。豊世もしゅうとめの側に考深い眼付をして、女持の煙管きせるで煙草をふかしていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして不幸な私達は聞いても聞いてゐられないやうな反感をそそられながら、その少し鼻にかかつたねばり聲から、乾干ひからびきつた倫理の講義を授けられた。また小才子の英語の先生がゐた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
日本の教育という意味が青年教育ばかりに偏しているので、青年の思想はどしどし前へ進んで行くのに、老人は一度若い時に教育されたきりであるからその思想は過去のままに乾干ひからびている。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
緑地オアシス蜃気楼しんきろうも求められない沙漠のような……カサカサに乾干ひからびたこの巨大な空間に、自分の空想が生んだ虚構うその事実を、唯一無上の天国と信じて、生命がけで抱き締めて来た彼女の心境を
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
乾干ひからびた、人間知のない、かかしのような人間です。
すべての芽を培え (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
明けても暮れても雨と暑さ、そしてこの倦怠だるさと一日一日灰色に乾干ひからびてゆく心! こんな世界に、何が始まり得るというのだろう。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「それで旦那、奥様のことでやす」とホセは喉の乾干ひからびたような声を出した。精一杯に一万五千ペセタになる陳述をしようという意気込みであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)