不壊ふえ)” の例文
旧字:不壞
そしてはまたそれに馴れて忘れるともなく、雲を見ては雨を嘆くばかりで、雲のうちにも不壊ふえの富士のあることを思わなくなる。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしわたくしがその世界にすっかり入り切るならば、特に愛人とか親とかの差別はなく、わたくしは万人万物と不壊ふえの生命で手をつなぎ合えるのです。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
神州不壊ふえなどという妄信もうしんの敵ではないのです、それを理解しようとせずして、或いは之に眼をつむって、夷狄なんするものぞと高吟するような態度は
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
でも、もう少し金剛不壊ふえなものを考へて見ても好いではないか。君の議論では、その根本は根本だけのものだから、それを今更言つて見たつて為方がない。
間居 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
諸君は永遠に不壊ふえの水晶宮を信じていられる。つまり、内証で舌を出して見せたり、袖のかげでそっと赤んべをしたり、そんな真似のできない建物を信じていられる。
菊池寛きくちかんの『不壊ふえ白珠しらたま』のうちで「媚態」という表題の下に次の描写がある。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
老僧様、私は不壊ふえの知識を求めて上って来たのでございます。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
さて、こうした末に、なり上がった人の命が不壊ふえなればこそ
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
……故によく蜀を安んじ、わが基業をいよいよ不壊ふえとなすであろう。ただ太子劉禅は、まだ幼年なので、将来は分らない。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何方どつちも本当ではあるが、しかし何方も主観に偏つたセンチメンタルな見方で、不動不変な自然は、心理は、愛はまだその一段上に位置して、大きな不壊ふえなリズムを刻みつゝあるのである。
自からを信ぜよ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
千古万代、この国とともにある不壊ふえの富士も、雲におおわれて、一天晦冥いってんかいめいまったく人界から見えなくなる数日もある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といって、大作戦をしかける余地のない鉄壁てっぺきだ。その不壊ふえの構えに、いて、奇手をもてあそべば、かならずかけた方の仕かけ破れになるにきまっている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし寄手の帷幕に、不壊ふえたいの中心がなかったら、恐らく三木城はついに陥ちなかったかも知れない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに、きっと一文字に結んでいる口もとには不壊ふえの意志がひそんでいるように見えた。ある者は
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不壊ふえの権力とみえる物も、時の怒濤の一波のあとには、あとかたもなくなり、反古に貼られた一法師の徒然つれづれな筆でも、残るいのちのある物は、いつの世までも持ちささえてゆく。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御身ら、多年高禄をみながら、今日この時、無為茫然、いったい何をまごまごしておられるのか。なぜ一日も早く太子を立てて新しき政綱を掲げ、天下に魏の不壊ふえを示さないのか
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不壊ふえ太柱ふとばしらが、でんと坐っているような力強さを、たれにも感じさせるのだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唯これ不壊ふえ精神こころを練り一身の護りとすれば足るのでござる——がしかし、仙石左京之亮殿の外ならぬ頼み、ご懇望もだしがたく試合は仕るが、勝敗は時の武運あらかじめ勝つとはお引受け致し難い
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)