下手まず)” の例文
と、陣々では高橋又四郎の下手まずさをあざけり、敵がさらし物にして坂下へかかげた又四郎の首を見て帰って来る者などもあった。そして、口々に
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お富が海へ飛び込むところなぞは内容として、私には見るにえない。り方がうまいとか下手まずいとか云う芸術上の鑑賞の余地がないくらいいやです。
虚子君へ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのためかどうか、今に私は、ただに字が下手まずいばかりでなく、筆というものが使えないくらいである。
みんなに下手まずい、下手いって、嗤われたって葉ちゃんだけは、笑わなかったし、元気づけてくれたし
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
俳句はだんだん下手まずくなって来た。定石を覚えて来ると下手くなるそうだ。昨日二千米の海中に、珊瑚島がぼつりと見える。ミニコイ島という。樹木一面に繁茂して白い鴎が群れている。
欧洲紀行 (新字新仮名) / 横光利一(著)
胡弓が下手まずいのかな。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「ばかをいえ、鷺江お雪の死体を写すと書いてあるじゃねえか。死人形が生きているようじゃ、下手まずいことにならあ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わきに「これしぼけた所と思い玉え。下手まずいのは病気の所為せいだと思い玉え。うそだと思わばひじを突いて描いて見玉え」
子規の画 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずれも下手まずいものだのに、何々先生のために何々書すと云ったようにもったいぶったのばかりであった。股野が何か云うと、向うの支那人も何か云う。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下手まずい仕ぐさで「うっかり、紙入れを家に忘れて来てしまった。二、三日うちに、おふくろを連れてまた見物に出直すよ。そのときにはうんと色をつけるからな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——急ぐにも当たるまいではないか。むしろ、その辺で、一杯ろう。やがて、夜が来るというもの。くそ骨折って、下手まずい仕事をするなあ、三したのすることだ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……正成ほどな者がよ、どうしてそんな先が見えぬのか。あれほどわしが兵学を仕込んだ正成がと思えば、そのち上がりの下手まずさ、おろかさ、腹立たしいばかりぞ。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)