上塗うわぬ)” の例文
それにこの荒れはてた工場については、数箇月前のことであるが、はじ上塗うわぬりのようなかんばしくない事件がおこった。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何しろこっちは、無けなしの貯金に借金の上塗うわぬりした何十円也を試験料としてブチ込んでいる一方に、船乗片手間の独学と来ているんだから絶体絶命だ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
然るに首を取られないで鼻だけ取られたと云うのでは、耻辱の上塗うわぬりで、味方の陣中へも触れることが出来ない。
まだ壁の上塗うわぬりもすっかりできていないし、月の末になるとまた農家はいそがしくなるからとしてあった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「全く弱った、その山崎という奴がここへ来て、大勢のいる前でつらの皮をかれた日には恥の上塗うわぬりだ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
塗りにも、塗り方は、堅地かたじ泥地どろじとあって、堅地は砥粉地とぎこじ桐粉地きりこじとあり、いずれもいで下地したじを仕上げるもの。上塗うわぬりは何度も塗って研磨して仕上げるものです。
二階堂。なにもさように、事むずかしゅう考えずとよかろうが。……せっかく下向した勅使も、開けぬ文筥では、持ち帰るにも、が抜けようぞ、かたがた、それこそはじ上塗うわぬりを
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しょせん自分は逃れることの出来ない罪を背負っている以上、なまじいに逃げ隠れをして捕われるのは恥の上塗うわぬりである。兄が弟の仇を討たぬというならば、自分はいさぎよく自滅するほかはない。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……これは帝国の前途に横たわる一大障壁であります。今日の如く上塗うわぬりの思想が横行し、糊塗縦横の政治が永続しているならば、吾々日本民族の団結は、あの切藁すさ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
立派な大仏の形が悠然ゆうぜんと空中へ浮いているところは甚だ雄大……これが上塗うわぬりが出来たらさらに見直すであろうと、一層仕事を急いで、どうやら下地したじは出来ましたので、いよいよ