万頃ばんけい)” の例文
旧字:萬頃
遠い山々の峰が赤く、万頃ばんけいの波頭が赤く、船は半面を燃えるように赤らめ、人々の顔は羞恥しゅうちの限りのようにまッ赤に色どられた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
何者か因果の波を一たび起してより、万頃ばんけいの乱れは永劫えいごうを極めて尽きざるを、渦く中にかしらをも、手をも、足をもさらわれて、行くわれのはては知らず。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お光の心は如何様に涼しく感じたであろう。秋になる。万頃ばんけいの蘆一斉にそよいで秋風の辞を歌う。蘆の花が咲く。かりが鳴く。時雨しぐれが降る。蘆は次第に枯れそめる。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
万頃ばんけいの豊田眼路めじはるかにして児孫万代を養ふに足る可く、室見川むろみがわの清流又杯をうかぶるにへたり。衵浜あこめはま小戸おどの旧蹟、芥屋けやいくの松原の名勝を按配して、しかも黒田五十五万石の城下に遠からず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
家敷やしきの? くるわを出て城下の町を離れると、俗に千間土堤せんげんどてという堤へ出たが,この堤は夏刀根川とねがわの水があふれ出る時、それをくい止めて万頃ばんけい田圃たはたの防ぎとなり、幾千軒の農家の命と頼む堤であるから
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)