一寸見ちょっとみ)” の例文
そこで兵太郎のことというと夢中になる娘のお輝をだました。——お輝は一寸見ちょっとみ幼々ういういしく、いかにも子供らしいが、もう立派な娘だ。
恐らく此歌は人麿自身の作として間違は無いとおもうが、一寸見ちょっとみには、ただ口に任せて調子で歌っているようにも聞こえるがそうではないのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ひそかに自任しているよりも、低く自分の徳を披露ひろうして、控目という徳性を満足させておきながら、欲念というような実際の弱点は、一寸見ちょっとみには見つからない程
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一寸見ちょっとみには、かの令嬢にして、その父ぞとは思われぬ。令夫人おくがた許嫁いいなずけで、お妙は先生がいまだ金鈕きんぼたんであった頃の若木の花。夫婦ふたりの色香を分けたのである、とも云うが……
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一寸見ちょっとみにはそうお見えになりますが、だんだんお附合いして行くと、思いの外、と申しては失礼かも知れませんが、趣味でも何でもほんとうに思いの外ハイカラで、モダーンで
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
書道展覧会など殆ど全部がといって差支えない今の書家風の書、すなわち手先の器用で作り上げる「書」形態は、筆調は体裁上、一寸見ちょっとみに本当の能書と変るところなきものかに見える。
スッカリ若返りにしておりましたので一寸見ちょっとみはフイちゃんよりも可愛いくれえで、フイちゃんとお揃いの前髪を垂らして両方の耳ッたぼに大きな真珠をブラ下げたやつが、翡翠ひすい色の緞子どんすの服の間から
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だから私のオセッカイを軽くかわして、私を追払い、種則と膝ヅメ談判に及んだが、私なんかゞ三百代言よろしく一寸見ちょっとみだけ凄んでみせるのと違って、猛烈に急所をついて食い下ったらしい。
ジロリの女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一寸見ちょっとみはよく見えても、作ってみると駄目なんでございましょう」
しているが、あんな悪い奴はないよ。自分のことしか考えない人間ほど恐ろしいものはない。一寸見ちょっとみは正直そうだが、腹の中は鬼だ
内容の貧弱は眼利きの前に蔽うべくもない。一寸見ちょっとみは筆もこなれていて、字体もなかなか気が利いておもしろくあるが、惜しいかな、その根本が書家風に堕していて、尊び難いものがある。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
騒がせている銅脈さ。一寸見ちょっとみ真物ほんものの小判と少しも違わない。——もっともこちとらは、滅多に小判を
一寸見ちょっとみは二十二三がせいぜい、色白で、華奢きゃしゃで、なよなよとした陰影の多い美しさは、豊満で肉感的で、少し媚態びたいをさえ持ったお政とは、およそ正反対な感じのする女でした。