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せいざうば
長吉は
唯だ首を
頷付かせて、
何処と
当もなしに遠くを
眺めてゐた。
引汐の
堀割に
繋いだ
土船からは
人足が二三人して
堤の
向うの
製造場へと
頻に土を運んでゐる。
何処からともなく
煤烟の
煤が飛んで来て、
何処といふ事なしに
製造場の機械の音が
聞える。
すぐ
後の寺の門の
屋根には
雀と
燕が絶え
間なく
囀つてゐるので、
其処此処に
製造場の
烟出しが
幾本も立つてゐるに
係らず、
市街からは遠い春の
午後の
長閑さは充分に
心持よく
味はれた。