かね)” の例文
つち一升、かね一升の日本橋あたりで生れたものは、さぞ自然に恵まれまいと思われもしようが、全くあたしたちは生花きばな一片ひとひらも愛した。
「なにか、こころからむすめよろこばせるようなうつくしいものはないものか。いくらたかくてもかねをばしまない。」と、両親りょうしんは、ひとはなしました。
笑わない娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
始めのうちは音信たよりもあり、月々つき/″\のものも几帳面ちやん/\と送つてたからかつたが、此半歳許はんとしばかり前から手紙もかねも丸で来なくなつて仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「おまえ、おれはそとではたらいて、かねをかせいでくるよ。おまえは畑へいって、麦をっておくれ。それで、パンをつくるから。」
すると、泥棒の方でも吃驚びっくりして、いきなり下女の顔へ手文庫の中のかねを叩き付けたそうで、可哀相に若い娘が額をやられております。
きことにしてかねやらんせうになれ行々ゆく/\つまにもせんと口惜くちをしきことかぎくにつけてもきみさまのことがなつかしくにまぎれてくに
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
新道しんだう春日野峠かすがのたうげ大良だいら大日枝おほひだ絶所ぜつしよで、敦賀つるがかねさきまで、これを金澤かなざはから辿たどつて三十八里さんじふはちりである。かに歩行あるけば三年さんねんかゝる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ルグランがかねが埋められているというあの南部諸州に無数にある迷信のどれかにかぶれていて、また例の甲虫を発見したことのために
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
俺は彼に利用される振りをして、彼のかねを数万円使い棄てて見せたら、彼奴きゃつめ、驚いたと見えて、フッツリ来なくなってしまった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かねの利息で楽に暮らそうと考えるようなことは到底自分ら親子の願いでないこと、そういう話までも私は二人ふたりの子供の前に言い添えた。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かねのありそうないえたら、そこのいえのどのまどがやぶれそうか、そこのいえいぬがいるかどうか、よっくしらべるのだぞ。いいか釜右ヱ門かまえもん
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
この獵犬はその營養やしなひを土にもかねにもうけず、これを智と愛と徳とにうく、フェルトロとフェルトロとの間に生れ 一〇三—一〇五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
普通からいうとなにか一事業を起さんとするにはまず金が資本であると、こう決めて外国行にもまずかね調ととのえてから行くとするのである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「さっきの矛盾した事実はこれで説明ができるようだね。みどりは、かねと親とにしばられていやな男と結婚しなけりゃならないのだ」
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それとも、ちがうようだ……かねは、ほしくないことはないけど、われわれは、おばさまたちのように、ガツガツしちゃいないんですよ」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
全部がかねで出来ていたにも拘らず、小川を流れていくどんぐりの皿よりももっと軽々かるがると、り上がって来る磯波の上に浮かんでいました。
何といつてもかねかねだ。金貨だけしまつて置いて先生のために使ふことにしよう。先生は御自分のことはまるつきり構はない方なのだから。
イエスとペテロ (新字旧仮名) / 片山広子(著)
かれはその中に『かね』を取扱つた。むづかしい『金』の悲劇を取扱つた。私達作者の願ひとしては、『女』と『金』とを十分に理解したい。
西鶴小論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
坊主ばうずめうな事をふて、人の見てまいでは物がはれないなんて、全体ぜんたいアノ坊主ばうず大変たいへんけちかねためやつだとふ事を聞いてるが
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから、小劍は、やはり、世界で有數の最高級の蓄音機を持つてゐる、それは千圓以上(今日こんにちかねでいへば、數十萬圓か、)
「鱧の皮 他五篇」解説 (旧字旧仮名) / 宇野浩二(著)
「お前はどこから金貨を手に入れたのだね。資本もとでさえありゃ、おれは世界中のかねをみんな手に入れることが出来るんだがな。」
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
かれがたのもしきをよろこびて、のこる田をもりつくしてかねへ、一一絹素きぬあまた買積かひつみて、京にゆく日を一二もよほしける。
けれども、幕府ばくふが、イギリスのいいぶんをききれて、たくさんのおかねをはらったので、さいわい戦争せんそうにはなりませんでした。
ヴィタリス親方はいつもからだにかねをつけている習慣しゅうかんであった。それがられて行くときになにもわたしにいて行くひまがなかった。
「それでもにいさんは、ただの二でも三でも、あたしのいたふみさえってけば、おかねみぎからひだりとのことでござんした」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
どうぞ、あのかねがなくては、これからさきのながいたびができない身の上、かわいそうだと思って、おかえしなすってくださいまし
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芥川あくたがは氏は清閑はかねの所産だと言ふ。が(中略)金のあるなしにかかはらず、現在のやうな社会的環境の中では清閑なんか得られないのである。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
へば、あたまから青痰あをたんきかけられても、かねさへにぎらせたら、ほく/\よろこんでるといふ徹底てつていした守錢奴しゆせんどぶりだ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
かねは其きり涕汁はなも引かけない。處へ松公は段々お大が鼻について、始終氣のない素振を見せる。お大のすさみ出した感情はますますさむばかりだ。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ほんとうはあの高利貸こうりかしに、むかしおかねりて、ひどいにあつたことがあるの。しかえしをしてやろうとおもつていたわ。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
さて、うそつきどもは、前よりももっとたくさんのおかねと、絹と、きんとを願い出ました。そういうものが、反物たんものを織るのに必要だというのです。
自分じぶん内職ないしよくかね嫁入衣裳よめいりいしよう調とゝのへたむすめもなく実家さとかへつてたのを何故なぜかとくと先方さきしうと内職ないしよくをさせないからとのことださうだ(二十日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
かね』に対して『鉄』と云ったり、『盗む』に対して『馬』といったり、可也無理な聯想をやってますよ、『植木鉢』に一番長くかかったのは
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あなた、もし催眠術にかゝらなくっても、どうか寝たふりをして下さい。その代りに此のかねをあなたに上げる。いゝですか、分りましたか。」
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼等が近づくにつれ、かねのことを思う心はさっきまでの恐怖を呑みこんでしまった。彼等の眼はぎらぎらと燃えた。足は次第に速く軽くなった。
客の小山さえ妻の勧告をよろこばぬ色あり「中川君、文明流の台所もいいが器物を買うのにかねがかかって困るよ」と今人こんじんは誰もよくこの愚痴ぐちを言う。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
してこれははなはだ至当なる考えで、俗の世界には素封家そほうかはその人物の如何なるを問わず、単にかねがあるために一種の勢力を有するものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
矢張やはぼく友人いうじんだが、——今度こんどをとこだが——或奴あるやつからすこるべきかねがあるのに、どうしてもよこさない。いろ/\掛合かけあつてたがらちがあかない。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
だから、ご主人が、あんなに沢山おかね下さったのよ。ねえ、お母さん! あのお金、どうなすった? 月末の払いをして、少しは残ったでしょう?
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おりから、本邸の方でどっと人の笑う声、それも一人二人ではなく、男の声にかねを切るような女の声がまじって騒がしい。
この頃になって、いよいよとなると大切なものはかねでなくて物であるということが大分問題になってきたようである。
米粒の中の仏様 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「犬養は指揮権の真相を原稿に書いたが、とどのつまり、口止め料として莫大なかねを受け取った。しかし娘の道子がこのまま黙ってはいないだろう」
武士はそのまま下駄げたを脱いで上へあがり、つかつかと仏像の前へ往ってふところ財布さいふから小粒のかねを出してそれにそなえた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
季節は九月だが冬の早い土地だから、そのままひきあげるか、砂金をかねに替えて冬ごもりの支度をするか、どちらかにきめなければならなくなった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
取りてまたたのしむべしうへ此方の仕向しむけによりむこの方より出てゆくときかねかへさずにすむ仕方しかたは如何ほども有べしとおつねちう八の惡巧わるだくみにて種々しゆ/″\に言なしつひに又七を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そしてジャンはいつのまにかかねの力で町のおもだった人を自分の手下てしたのようにしてしまい、おそろしくえらい人間だということになってしまいました。
かたわ者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
小人の申し出たおかねは、それほどたいしたものとは思いませんでしたが、少年は小人をつかまえてからというもの、なんとなくこわくなっていました。
したがつこの獲得くわくとくしたかね本年ほんねん輸入時期ゆにふじきいたつて拂出はらひだして減少げんせうしても、下半期しもはんき輸出超過ゆしゆつてうくわ時期じきまたふたゝこれ取返とりかへすことが出來できれば、非常ひじやう仕合しあはせである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
それからというものは、かぜでちりをきためるように、どんどんおかねがたまって、とうとう大金持おおがねもちになりました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かねにしても、そのほかの何かの所有物にしても、今さら新しく発見されるものは何一つなかったのです。しかし——