酒宴さかもり)” の例文
其の晩源次郎がまいり酒宴さかもりが始まり、お國が長唄の春雨はるさめかなにか三味線さみせんを掻きならし、当時の九時過まで興を添えて居りましたが
酒宴さかもり準備したくをして数多たくさんの料理を卓の上へ並べた室が見えた。元振はその室の入口へ立って中を窺いた。そこにも人影がなかった。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それとよくてゐるのは、松平大進たいしんといふ武士さむらひのやり方で、酒宴さかもりになると、きまつて長羅宇ながらうで、すぱりすぱりと煙草をふかし出す。
その前後に催さるる入船出船の酒宴さかもりには長崎の紅い三尺手拭を鉢卷にして、琉球節を唄ふ放恣にして素朴な船頭衆のなかに
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
天皇はつぎにはまたあるとき、その長谷はつせにあるももえつきという大きな、大けやきの木の下でお酒宴さかもりをおもよおしになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
薪とりにいでし四十九日目の待夜たいや也とていとなみたる仏㕝ぶつじにはかにめでたき酒宴さかもりとなりしと仔細こまかかたりしは、九右エ門といひし小間居こまゐ農夫ひやくしやう也き。
掛けやがて一座と成て酒宴さかもりうち後家に心有りなる面白可笑おもしろをかし盃盞さかづきことに後家のお勇も如才じよさいなき人物しろものゆゑ重四郎が樣子を熟々つく/″\見るに年はまだ三十歳を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下廻りまで全部三階にあつまって寄始よりはじめの酒宴さかもりをしておりましたが、ひとりも欠けたものがございませんでした。
盛な歓楽の声は二階に湧上つて、屋外そとに居る二人の心に一層の不愉快と寂寥さびしさとを添へた。丁度人々は酒宴さかもりの最中。灯影ほかげ花やかに映つて歌舞のちまたとは知れた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「今夜あすこで、素晴らしい酒宴さかもりがあるだよ!」と、茲でにやりと笑顔を見せてチューブは語りつづけた。「どうかまあ、遅参にならなきやあよいがのう!」
美味うまそうなものを一パイ詰めた籠を出して、雑木林の中の空地に敷き並べると、部落に残っている片輪かたわ連中を五六人呼び集めて、奇妙キテレツな酒宴さかもりを初めた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どうでえ! 喧嘩に強い奴あ恋にも強いぞ。長の思いのれる夕べだ。哲別ジェベ速不台スブタイ酒宴さかもりの支度をしろ。花嫁花婿のために、祝言しゅうげんの席を設けろ、あっはっはっは。
あの晩の、余りにも野蛮な酒宴さかもりから様々な失策を演じた後なので、一同は、今宵こそは一層心を引き締めて仕事に掛らなければならぬと注意して、R村へ差かゝつた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼方あなたの山をきっにらめつ、「さては今宵彼の洞にて、金眸はじめ配下の獣酒宴さかもりなしてたわぶれゐるとや。時節到来今宵こそ。宿願成就する時なれ。阿那あな喜ばしやうれしや」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
近づいて、物蔭へ、ソッと身を伏せてうかがいますに、黒い人数は六、七人、枯木や枯草をパチパチして、それへ酒とおぼしき湯沸しをかけ、茶碗を廻して野天の酒宴さかもり
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金右衛門さんの指図で、私等はやつと山を下りることになりました。蜜柑畑へ更に伴はれるのです。酒宴さかもりの所でをどりを見せたりして居たお政さんも一所に行くことになりました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
まあまあそいつもいいとして、何と一つの人影も、庭内にいないじゃアありませんか! だがその代り屋敷内では、とても陽気なドンチャン騒ぎ、酒宴さかもりをやっているんですなあ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見ると、その広間の中には、どれもこれも強そうな男が三十人ばかりお酒宴さかもりをしていました。そして一番高い所に、身のたけが六尺もある位な大男が、胡座あぐらをかいて坐っておりました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
浅間せんげんやしろで、かまで甘酒を売る茶店へ休んだ時、鳩と一所いっしょ日南ひなたぼっこをする婆さんに、阿部川あべかわ川原かわらで、桜の頃は土地の人が、毛氈に重詰じゅうづめもので、花の酒宴さかもりをする、と言うのを聞いた。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毎年一回、秋の月のいい晩に、村中の人が八幡様に集まりまして、酒宴さかもりを開きました。それを「狸のお祭」と言いました。男も女も子供も、大勢おおぜいの子狸や孫狸と一緒に踊り騒ぎました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
皆云いあわせたように、隣り村の居酒屋へ、夜明かしの酒宴さかもりにでかけていった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また曩日いつかの樣に、今夜何處かに酒宴さかもりでもあるのかと考へて、お定はつつましやかに水潦みづたまりを避けながら、大工の家へ行つた。お八重は欣々いそ/\と迎へたが、何か四邊あたりはゞかる樣子で、そつと裏口へれて出た。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのうち、いつか殆ど知らぬまに、酒宴さかもりになつてしまつてゐた。高く炎がゆらめき、人聲が顫へ、こんぐらかつた歌が玻璃と燭光から生じ、拍子がおもむろに熟して、——遂に、舞踏が涌き上つた。
「今夜、何かお酒宴さかもりでもなさりますか?」と聞く。
香油 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
しまうて、どうやら酒宴さかもりが——
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
大伴の表へは水を打って掃除も届き、奥には稽古を仕舞って大伴蟠龍軒兄弟が酒宴さかもりをしている。しばらくして「玄関に取次とりつぎがあるよ、安兵衞やすべえ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
真澄ますみはその晩も台所へ往って、酒宴さかもりの後しまつをしているじょちゅうから、二本の残酒のこりざけと一皿のさかなをもらって来て飲んでいた。
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二階座敷で時折樂しい酒宴さかもりのあつたことも、客を款待もてなすことの好きな姉の夫の氣風をあらはして居りました。
「アハハハ。あやまったあやまった。お見外みそれ申しました。イヤ全くこんな酒宴さかもりは初めてだ」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一方は死の恐怖に襲われどおしで、寸間も安心していられないというのに、一方は笛や酒宴さかもり
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取片付とりかたづけさせ自分はいそぎのことゆゑ一足先へ出立してあとよりおひつくべしと申聞け日の暮頃慈恩寺村じおんじむらを立出けるが時しも享保きやうほ八年七月十六日にて盂蘭盆うらぼんのことなれば村々にては酒宴さかもり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
松茸の御飯や、お汁や、それから堺から待つて来た料理やでおいしいお昼飯は食べましたが、父やそのほかの人の酒宴さかもりが、何時いつ果てるとも見えませんのが困ることと思はれました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
……それはそうと美麻奈さんは、いったいどこにいるのかしら? 宴会の席にはいないようだ。……どうやら酒宴さかもりは終ったらしい。みんなガヤガヤ立ち上がったよ。廊下の方へ出て行くよ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
向う角の火災保険の煉瓦れんがに映る、縁結びのあかあかりは、あたかも奥庭の橋に居て、御殿の長廊下を望んで、障子越の酒宴さかもりながめる光景ありさま! 島田の影法師がなまめくほど、なお世に離れた趣がある。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皆浮きうきしながら、焚火のまわりに獣皮を敷き、酒宴さかもりの座を設ける。
奥座敷の障子を開け放ち、酔興にも雪見の酒宴さかもりが始まつた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かの雪の酒宴さかもり
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
その人びとは酒宴さかもりでもしているようなふうであった。大異はその人びとの側に一刻も早く往きたかった。大異は足よりも心の方がさきになって往った。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
こっそり酒宴さかもりを致して居ります、其の内に段々と作藏が酔って来ると、馬方でございますから、野良で話をつけて居りますから、つい声が大きくなる。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自宅うちの惣菜や、乾物ひものの残りを持込んで、七輪を起す女連おんなづれも居るという訳で、何やや片付いた十一時過になると福太郎の狭い納屋の中が、時ならぬ酒宴さかもりの場面に変って行った。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
考へ居たりしが大概おほよそ丑刻やつ時分じぶんとも思ふ頃そつと起上り寢床ねどこにて甲懸かふがけ脚絆きやはん迄も穿はきいざと云へば逃出にげだすばかりの支度をなし夫より後藤がたるそばさしより宵の酒宴さかもりの時見て置きたる胴卷の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
呂宋兵衛るそんべえ以下、野獣やじゅうのごとき残党輩ざんとうばら竹童ちくどうのあげた狼煙のろしも、伊那丸軍いなまるぐんの出動も知らず、みなゆだんしきッた酒宴さかもり歓楽最中かんらくさいちゅう。なかにはすでにいつぶれて、正体しょうたいのない野武士のぶしさえある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その御大層ごたいそうもない茶壺を、あの品川へ着いた夜の酒宴さかもりに、三島から狙ってきたこのおいらに、見ごとに盗みだされるたア、強いだけでのうのねえ田舎ざむれえ、よくもああ木偶でくの坊が揃ったもんだと
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
寮の座敷では年始の酒宴さかもりが、今陽気にひらかれている。
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
海には難破船の上の酒宴さかもり……
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
えつおさえつ話をしながら酒宴さかもりをして居りましたが、其の内にだん/\と爺さん婆さんも微酔ほろよいになりました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その婚礼の席には秋山長右衛門夫妻、近藤六郎兵衛がいたが、酒宴さかもりになったところで、伊右衛門の朋輩今井仁右衛門いまいじんえもん水谷庄右衛門みずたにしょうえもん志津女久左衛門しずめきゅうざえもんの三人が押しかけて来た。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
神護建立じんごこんりゅう勧進かんじんのため、院の御所へ踏み入って、折から、琵琶びわや朗詠に酒宴さかもりしていた大臣おとどどもに、下々しもじもの困苦ののろい、迷路のうめきなど、世の実相さまを、一席講じて、この呆痴輩たわけばら一喝いっかつした所
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海には難破船の上の酒宴さかもり……
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
肝腎かんじんの花里がいま身請の酒宴さかもりと申す最中もなかに逃亡いたしたんですから、楼中の騒ぎは一通りではありません、上を下へとゴッタ返して探しましたが、中々知れそうな理由わけはありません。