薄黒うすぐろ)” の例文
で、ふね一揺ひとゆすれるとおもふと、有繋さすが物駭ものおどろきをたらしい、とも五位鷺ごゐさぎは、はらりとむらさきがゝつた薄黒うすぐろつばさひらいた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのときりて小鳥ことりをびつくりさせるものは、きふ横合よこあひから飛出とびだ薄黒うすぐろいものと、たか羽音はおとでもあるやうなプウ/\うなつておとです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もう下の方を見まわしても、かさなった山やとおい野が少し見えるきりで、初めのようなうつくしい景色けしきにはいりませんでした。薄黒うすぐろくもがすぐ前をんで行きました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
宗助そうすけおもしたやうがつて、座敷ざしき雨戸あまどきに縁側えんがはた。孟宗竹まうそうちく薄黒うすぐろそらいろみだうへに、ひとふたつのほしきらめいた。ピヤノの孟宗竹まうそうちくうしろからひゞいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と夜具をりにかかる女房にょうぼうは、身幹せいの少し高過ぎると、眼のまわりの薄黒うすぐろく顔の色一体にえぬとは難なれど、面長おもながにて眼鼻立めはなだちあしからず、つくり立てなばいきに見ゆべき三十前のまんざらでなき女なり。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
欄干らんかん横木よこぎが、みづひゞきで、ひかりれて、たもときかゝるやうに、薄黒うすぐろふたたゝずむのみ、四邊あたり人影ひとかげひとツもなかつた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
薄黒うすぐろくも足下あしもとに一めんにひろがっていて、とおくの下の方でかみなりるような音がしていました。くもよりも高い山だったのでした。それでも、むこうにはさらに高い山がつき立っていました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いかり一具いちぐすわつたやうに、あひけんばかりへだてて、薄黒うすぐろかげおとして、くさなかでくる/\と𢌞まはくるまがある。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いかり一具ひとつすわつたやうに、あひだ十間じつけんばかりへだてて、薄黒うすぐろかげおとして、くさなかでくる/\と𢌞まはくるまがある。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
で、老爺ぢい今度こんど自分じぶんきざんだうをを、これはまた不状ぶざま引握ひんにぎつたまゝひとしくげる、としぶきつたが、浮草うきくささつけて、ひれたて薄黒うすぐろく、水際みづぎはしづんでスツととまる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一度いちどは、たとへば、敦賀灣つるがわんでありました——にかいた雨龍あまりようのぐる/\といて、一條ひとすぢ、ゆつたりとしたれたやうなかたちのものが、りしきり、吹煽ふきあふつて空中くうちう薄黒うすぐろれつつくります。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)