さく)” の例文
「せっかく、人穴城ひとあなじょうの根もとまで押しよせたに、煙攻めのさくにかかって引ッ返すとは無念千ばん……ああまたまっ黒に包んできおった」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるも我國わがくに財源ざいげんにはかぎりあり、兵船へいせん増加ぞうかにも限度げんどあり、くにおもふの日夜にちや此事このこと憂慮ゆうりよし、えず此點このてんむかつてさくこうじてる。
人間の冷静な理知に訴えるだけの力のない人が、窮余きゅうよさくとして用いる手段だからね。それに誇りを感ずるなんて考えてみると滑稽だよ。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ドノバンはしいて反対をしてみたものの、心のなかではそれよりほかにさくがないことを知っていたので、沈黙ちんもくしてしまった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「矢島君のおっしゃるとおり、さしあたりはご自由におまかせ申しあげて、新年からおたがいに努力する方がさくの得たものかと私も存じます」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この時の事勢においてこれを抑制よくせいすることあたわず、ついに姑息こそくさくで、その執政をしりぞけて一時の人心をなぐさめたり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
見定めへんおうじて事をはからはんこそ十全のさくと云べしとつくして申ければ皆一同に此議に同ず道理もつともの事とて評議は此に決定したりさらいそぎ大坂へ旅館りよくわん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
このさいいたずらにあわてまわるのは、さくの得たものではないと、信ずるところあるもののごとく、玄心斎はそう言って、やっとみなをおさえているのだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「これはお前のまやかしでもなければ、お前の妖術でもない。自然のたことだ。自然が目覺めてたゞその最上のさくを——奇蹟きせきではない——おこなつたのだ。」
私たちの良心が苦しくてたまらないときは、その良心を苦しめるもののみえないところへいってしまうのが、最上のさくだということを私たちはよく知っている。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
小栗上野介おぐりこうずけのすけ全盛ぜんせいの当時、常に政府にちかづきたるは仏国公使レオン・ロセツにして、小栗及び栗本鋤雲くりもとじょうん等ともしたしく交際こうさいし政府のために種々のさくを建てたる中にも
努力奮闘を標榜ひょうぼうする者も静坐せいざ黙想もくそうをすることは潜勢力せんせいりょくを増加するのもっとも得たるさくだと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それゆゑ數秒間すうびようかん廣場ひろばられる見込みこみがあらば、もつと機敏きびんにさうするほう個人こじんとして最上さいじようさくたるに相違そういない。唯一たゞひとこゝ考慮こうりよすべきは用心ようじんかんする問題もんだいである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
飯田町いひだまち格子戸かうしどおとにもらじと思召おぼしめしれがそなへはてもせず、防禦ぼうぎよさくらざりき。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
秦の士に古物こぶつを好むものがあつた。魯の哀公のむしろを買はむがために田を売り、太王ふんを去る時のさくを買はむがために家資を傾け、舜の作る所の椀を買はむがために宅を売つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
道庵の駕籠を跟ければもつと簡單に曲者のさくが解る筈ですが、駕籠に付添つて來た一人の武士は、下手へたに駕籠を跟ける者があれば、一刀の下に道庵を刺す積りらしく、鯉口を切つて
鹽原巡査人夫の荷物にもつわかち取り自ら之をふてのぼる、他の者亦之に同じくす、人夫等つひに巳を得ず之にしたがふ、此に於て相互救護きうごさくを取り、一行三十余名れつただして千仭の崖上がいじやう匍匐ほふくして相登る
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
髑髏どくろあたへ、いでや出陣しゆつぢん立上たちあがれば、毒龍どくりようふたゝさく
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
だが、こういう事業にたいしては、人一ばいの熱をもつ蛾次郎である。たちまち一さくをあんじだして、蕎麦まんじゅうの曲取きょくどりをやりはじめた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イバンスはゴルドン、富士男、ドノバン、バクスターの四名に一さくをあたえて、ただちに物置きのなかにかくれた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
人物は、正直そうに見えてさくがあり、それに神経質なところもあって、気にくわないことがあると、いつまでも陰気いんきに押しだまっているといったふうであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わたくしはつく/″\とかんがへたが、今度こんどといふ今度こんどこそは、とてものがれぬてんわざはひであらう。櫻木大佐さくらぎたいさげんごとく、無謀むぼう本島ほんたうはなるゝこと出來できぬものとすれば、ほかなんさくい。
そのわずかな宿賃やどちんも、はらうことができませんので、マタンは一さくを案じ出して、宿屋やどやの主人からノミとツチを借り、木ぐつをつくって、金のかわりに、それではらうことにしました。
名なし指物語 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
この一令孃ひめありとこヽろくすものなく、るは甚之助殿じんのすけどのばかりなる不憫いぢらしさよ、いざや此心このこヽろふではして、時機あはよくは何處いづこへなりとも暫時しばしともなひ、其上そのうへにてのさくまた如何樣いかやうにもあるべく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「十三人扶持、吉田洞谷、四十二、」理安りあんは「八人扶持、准、村上理庵、四十三、」さくは「九人扶持、御足三人扶持、准、市岡策、四十二、」恒三は「九人扶持、桑田恒庵改恒介、六十、」若くは其子
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ウム……では、ひとまずめいめいかってに落ちのびて、またの時節をうかがい、京都へあつまって、人穴城ひとあなじょう栄華えいがにまさる出世のさくを立てるとしよう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怜悧れいりなる手塚はすぐ一さくを案じて阪井をたずねた、阪井は竹刀しないをさげて友達のもとへいくところであった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
イヤ、イヤ、稻妻いなづま尋常一樣じんじやういちやういぬでないから、屹度きつと無事ぶじ海岸かいがんへはたつしたらうが、しかし、吾等われら災難さいなん非常ひじやうことだから、大佐閣下たいさかくかでも容易ようゐにはすくさくがなくつて、考慮かんがへなさるのだらう。
いとなむがうへれは本家ほんけとてもちひもおもかるべくわれとて信用しんよううすきならねど彼方かなた七分しちぶえきあるときこゝにはわづかに三分さんぶのみいへ繁榮はんえい長久ちやうきうさく松澤まつざはきにしかずつはむすめ容色きりやうすぐれたればこれとてもまたひとつの金庫かねぐら芳之助よしのすけとのえにしえなばとほちやうかど地面ぢめん持參ぢさんむこもなきにはあらじ一擧兩得いつきよりやうとくとはこれなんめりとおもこゝろ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このごろ手塚は裏切り者として何人なんぴとにもきらわれた、でかれは光一にもたれるよりさくがなかった。かれはなにかさぐるように狡猾こうかつな目を光一に向けて微笑した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「そなたも聞いたでしょう。さく于道士うどうしを捕えて獄に下したということを」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌日富士男は、おもむろに持久じきゅうさくをこうじた、まず第一に必要なのは、食料品である。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)