石垣いしがき)” の例文
石垣いしがきのあたりには、敵味方の死者がころがった。鼻をつく鮮血せんけつのにおい、いたでに苦しむもののうめきは夜空に風のようにひびいた。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
日の暮れるころには、村の人たちは本陣の前の街道に集まって来て、梅屋の格子こうし先あたりから問屋の石垣いしがきの辺へかけて黒山を築いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それならいいですが」と野上は云った、「下城したら石垣いしがき町の梅ノ井でお待ち申していると、村田どのからの伝言でございます」
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
草の生えた石垣いしがきの下、さっきの救助区域の赤い旗の下にはいかだもちやうど来てゐました。花城くゎじゃうや花巻の生徒がたくさん泳いでりました。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
石垣いしがきの上にすわるときには、どんな小さなあなにもはいこめるようなイタチがいることを、しょっちゅう気をつけていなけりゃいけない。
高さ五けん以上もある壁のような石垣いしがきですから、私は驚いて止めようと思っているうちに、早くも中ほどまで来て、手近のかつらに手が届くと
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
たとえば石垣いしがきのような役目に適する。もっとも石垣というものは存外くずれやすいものだということは承知しておく必要がある。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その時、ポン公は気がつきませんでしたが、石垣いしがきのしたの海に、たくましい男が四五人のつてるボートが、こぎよせてゐました。
シロ・クロ物語 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
稚児さんを見てるのに飽くと、くらいところにいって、鼠花火ねずみはなびをはじかせたり、かんしゃく玉を石垣いしがきにぶつけたりしました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
五、 屋外おくがいおいては屋根瓦やねがはらかべ墜落ついらいあるひ石垣いしがき煉瓦塀れんがべい煙突えんとつとう倒潰とうかいきたおそれある區域くいきからとほざかること。とく石燈籠いしどうろう近寄ちかよらざること。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
さがさう、たづねようとおもまへに、土塀どべいしやがんで砂利所じやりどころか、石垣いしがきでも引拔ひきぬいて、四邊あたり八方はつぱう投附なげつけるかもわからなかつたんです。……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
四五日前、俵的と二人で川岸の通りを歩いて、こわれかけた石垣いしがきの上へ二人がならんで腰をおろしたときのことが、しきりに思いだされてくる。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
銀子はそこで七八つになり、昼前は筏に乗ったり、攩網たもふなすくったり、石垣いしがきすきに手を入れて小蟹こがにを捕ったりしていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すると、ほどなく彼の前に、七、八だんはばのひろい石垣いしがきがあらわれて、巨人きょじんがふんばったあしのような大鳥居おおとりいもとがそこに見られたのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きはめて一直線な石垣いしがきを見せた台の下によごれた水色のぬのが敷いてあつて、うしろかぎ書割かきわりにはちひさ大名屋敷だいみやうやしき練塀ねりべいゑが
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
昨夜はこの高い道路の石垣いしがきをのりこえて、こんな石まで打ちあげるほどあれくるったのかと思うと、そのふしぎな自然の力におどろきあきれるばかりだった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「なにがひかっているのだろう?」と、若者わかものは、その石垣いしがきのそばへってみました。そして、あいだからひかっているものをすと、ちいさなかぎでありました。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ベンヺ いや/\、此方こっちはしってて、この石垣いしがき飛越とびこえた。マーキューシオーどの、んでさっしゃい。
池は葭簾よしずおおったのもあり、露出ろしゅつしたのもあった。たくましい水音を立てて、崖とは反対の道路の石垣いしがきの下を大溝おおどぶが流れている。これは市中の汚水おすいを集めてにごっている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「そんなことは覚えていないけれど、恐ろしい大浪おおなみが立って、浜の石垣いしがきがみんなこわれてしもうた。」
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
巍々ぎぎたる高閣雲にそびえ。打ちめぐらしたる石垣いしがきのその正面には。銕門てつもんの柱ふとやかにいかめしきは。いわでもしるき貴顕の住居すまい主人あるじきみといえるは。西南某藩それはんさむらいにして。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
白木は石垣いしがきの方を指さして、あとからあのとおり娘たちがのぼってくるから、冷い飲物と、ランチをひろげる場所を用意してもらいたいというと、その番人は両手をひろげて
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういうときには、しかたがないので、石垣いしがきあいだや、はしぐいのかげふねめてやすみました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
岸の石垣いしがきの高さがあれでも一丈もあるだろうよ、……梯子はしごを下すやら、それは騒いだよ。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
午後、杉山部落を辞し、一路バスで清水しみずに行き、三保付近の進んだ農業経営や久能くのう付近のいちご石垣いしがき栽培さいばいなど見学し、その夜は山岡鉄舟やんまおかてっしゅうにゆかりの深い鉄舟寺ですごすことにした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「いや、何もない。分ったことは、あの社長室の直下すぐしたの四階は、石垣いしがきという建築師の事務所、その下の三階は空き部屋だ。両方とももう戸がしまっていて、調べようにも方法がない」
今しも石垣いしがきの岸から二人の潜水夫が異様な甲冑かつちうを頭にすつぽり冠つて、だぶ/\の潜水服を着て、便器のやうな形の大きい靴をきながら船渠の底へもぐらうとしてゐる所だつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
北からずっと一遍に南の方まで航行して、信覚しんかくと書いた石垣いしがきまで行ったのである。信覚にあたる地名は八重山やえやまにしかないのだから、彼処かしこと早くから往来していたと見なければならない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこには大きな石が、石垣いしがきのごとく積まれて、しかもそのなかばはくずれていた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
どんどん石垣いしがきのある横町へと曲がって行くので、ぼくはだんだん気味が悪くなってきたけれども、火事どころのさわぎではないと思って、ほおかぶりをしてしりをはしょったその人の後ろから
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
野砲聯隊やほうれんたいの跡に彼の探す新生学園はあった。彼は園主に案内されて孤児たちの部屋を見て歩いた。広い勉強部屋にくると、城跡の石垣いしがきと青い堀が、明暗を混じえてガラス張りの向うにあった。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
と引出して、今ではありませんが浅草見附あさくさみつけ石垣いしがきの処へ連れて来て
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わが家の石垣いしがきに生ふる虎耳草ゆきのしたその葉かげより蚊は出でにけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
愁に沈む女よ、落葉松からまつよ、石垣いしがきくづれに寄りかかる抛物線はうぶつせん
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そこでニールスは、ふたりの姿を見ると、すぐさま石垣いしがきの上にかけあがって、「やあ、こんちは、オーサちゃん、マッツちゃん。」
三棟みむねある建物のうしろには竹の大藪おおやぶがめぐらしてあって、東南の方角にあたる石垣いしがきの上には母屋もやの屋根が見上げるほど高い位置にある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天主台の上に出て、石垣いしがきの端から下をのぞいて行くうちに、北の最も高いかどの真下に六蔵の死骸しがいが落ちているのを発見しました。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この共同湯きようどうゆむかがはは、ふちのやうにまたみづあをい。對岸たいがん湯宿ゆやど石垣いしがきいた、えだたわゝ山吹やまぶきが、ほのかにかげよどまして、あめほそつてる。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
池の対岸の石垣いしがきの上には竹やぶがあって、その中から一本の大榎おおえのきがそびえているが、そのこずえの紅や黄を帯びた色彩がなんとも言われなく美しい。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
石垣いしがき煉瓦塀れんがべい煙突えんとつなどの倒潰物とうかいぶつ致命傷ちめいしようあたへることもあるからである。また家屋かおく接近せつきんしてゐては、屋根瓦やねがはらかべ崩壞物ほうかいぶつたれることもあるであらう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
小太郎山の山ふところ、石垣いしがきをきずき洞窟どうくつをうがち、巨材きょざい巨石でたたみあげたとりでのなかは、そこに立てこもっている人と火気で、むろのようにあたたかい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このふえくことをわすれてはならん。さあ、このふえっていって、石垣いしがきいしを一つずつかぞえながら五つかぞえてはこのふえき、とおかぞえてはこのふえくのだ。
けしの圃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雫石しづくいし川の石垣いしがきはげしい草のいきれの中にぐらりぐらりとゆらいでゐる。その中でうとうとする。
秋田街道 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ロミオ あの石垣いしがきは、こひかるつばさえた。如何いか鐵壁てっぺきこひさへぎることは出來できぬ。こひほっすれば如何樣どのやうことをもあへてするもの。そもじうち人達ひとたちとてもわしとゞむるちからたぬ。
舞台は相愛あひあいする男女の入水じゆすゐと共に𢌞まはつて、女のはう白魚舟しらうをぶね夜網よあみにかゝつて助けられるところになる。再びもとの舞台に返つて、男も同じく死ぬ事が出来できなくて石垣いしがきの上にあがる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ズガニを三匹とった正は、それをあきかんにいれて得々とくとくとして石垣いしがきをのぼってきた。三角形の空地にあるあんずの木は夏にむかって青々としげり、黒いかげを土手どての上におとしている。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
葉子が倉地と遠出らしい事をしたのはこれが始めてなので、旅先にいるような気分が妙に二人を親しみ合わせた。ましてや座敷に続く芝生しばふのはずれの石垣いしがきには海の波が来て静かに音を立てていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いくつかの山を掘り割りて水を引き、三重四重に堀を取りめぐらせり。寺屋敷・砥石森といしもりなどいう地名あり。井の跡とて石垣いしがき残れり。山口孫左衛門の祖先ここに住めりという。『遠野古事記とおのこじき』につまびらかなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あはれとも君は見ざらむ寺まちの高き石垣いしがきにさむき雨かな
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
石垣いしがきの下に、だるま船が待っていました。
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)