あゆみ)” の例文
光いよ/\はげしくしてあゆみいよ/\遲き日は、見る處の異なるにつれてこゝかしこにあらはるゝ亭午の圈を占めゐたり 一〇三—一〇五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
夜陰にとどろく車ありて、一散にとばきたりけるが、焼場やけばきはとどまりて、ひらり下立おりたちし人は、ただちに鰐淵が跡の前に尋ね行きてあゆみとどめたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まだ鉄砲ややりを持つてゐる十四人は、ことばもなく、稲妻形いなづまがた焼跡やけあとの町をつて、影のやうにあゆみを運びつつ東横堀川ひがしよこぼりがは西河岸にしかしへ出た。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一語なくして家に帰る。虚子路より去る。さらでも遅きあゆみは更に遅くなりぬ。懐手のままぶらぶらとうぐいす横町に来る時小生の眼中には一点の涙を
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
行歩ぎやうぶかなへる者は、吉野十津川の方へ落ゆく。あゆみもえぬ老僧や、尋常なる修業者、ちごどもをんな童部わらんべは、大仏殿、山階やましな寺の内へ我先にとぞにげ行ける。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
せっかくの思に、そで振り交わして、長閑のどかあゆみを、春のよいならんで移す当人は、依然として近寄れない。小夜子は何と返事をしていいか躊躇ためらった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
荷物炭は、艀から、本船へ、長いあゆみ板をかけ、その上を登り降りして、振りわけにしたになかごで、積みこむのが通常だ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と声も気もかろう、と身をそらしてあゆみを向けた。胸に当てたる白布には折目正しき角はあれど、さばいた髪のすらすらと、霜枯すすきの葉よりも柔順すなお
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
原詩を朗讀するそばから、先生は私に分るやう、苦心して翻譯しながら、遲い散歩のあゆみをば猶更遲くさせて行つた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
皺嗄しやがれたほとん聴取きゝとれないほどこゑで、うたふのが何處どこともなくきこえた。わたしおもはずすこあゆみゆるくしてみゝかたむけた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
二人は黙つてあゆみを運んだ。派手な蝶の模様の出てゐるそのパラソルは、長い間徐かにその二人の眼の前に動いて行つてゐた。日影は明るくあたりを照した。
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
それまではお勢の言動に一々目をけて、その狂うこころあとしたいながら、我もこころを狂わしていた文三もここに至ってたちまち道を失って暫く思念のあゆみとどめた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
藤次郎は何となく興味を失って、そのさきにあった群衆の方にあゆみをうつした。彼は今どんな話にも興味がもてない。然しどんな話にでも、興味をもとうと努めているのである。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
されど禅悦ぜんえつぢやくするも亦是修道の過失あやまちと聞けば、ひとり一室に籠り居て驕慢の念を萠さんよりは、あゆみを処〻の霊地に運びて寺〻の御仏をも拝み奉り、勝縁しようえんを結びて魔縁を斥け
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
これからあんな深山幽谷しんざんいうこく進入しんにふするのは、かへつ危險きけんまねくやうなものだから、しま探險たんけん一先ひとま中止ちうしして、かくふたゝ海岸かいがんかへらんときびすめぐらす途端とたん日出雄少年ひでをせうねんきふあゆみとゞめて
これを行けば、いくばくもあらぬに、穹窿きゆうりゆうの如く茂りあへる葡萄ぶだうの下に出づ。我等は渇を覺えぬれば、葡萄圃のあなたに白き屋壁の緑樹の間より見ゆるを心あてにあゆみをそなたへ向けたり。
あゆみ板の上から階子段の下まで押し合いへし合い、命からがら聴いて帰るような始末。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
ひとり沈思のあゆみを築山の彼方あなた、紅葉うるはしき所に運びぬ、会衆の笑ひ興ずる声々も、いと遠く隔りて、こずゑに来鳴く雀の歌ものどかに、目を挙ぐれば雪の不二峰ふじがね、近く松林の上に其いただきを見せて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
乗円 大恩教王の御教は日月輪にちぐわつりんの如く明かれども、波羅密多はらみたの岸は遠く、鈍根痴愚の我等風情に求道の道は中々の難渋、それ故に互にいさめ励まし、過あれば戒めらし、よしやあゆみは遅からうとも
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
あゆみおそむることもなく、急ぎもせずに、悠然と
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
神々に似た己のあゆみさまたげることは出来まい。
あゆみはおそき孔雀くじやく
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
暮れてゆくをさなあゆみ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
見よこなたに多くの民あり、されどそのあゆみは遲し、彼等われらに高ききざはしにいたる路を教へむ。 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あかりがついた時分、玄関はまだ暗かった、宅で用でも出来たのかと、何心なく女中について、中庭のあゆみを越して玄関へ出て見ると、叔母のうちに世話になって
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なるほど涼しい風は絶えず梢の間からき起って軽く人のたもとを動かすのに種彦もいつか門人らと並んで、思掛けない水茶屋みずぢゃや床几しょうぎに腰を下し草臥くたぶれあゆみを休ませた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夫を玄関に送りでし宮は、やがて氷のあなぐらなどにるらんおもひしつつ、是非無きあゆみを運びて居間にかへりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
貯炭場の岸壁から、つながれているはしけに、あゆみ板がわたしてある。今日は、艀積みをしているのだが、その艀の「カラス」という綽名の船頭も、珍しく、座談会に加わっている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
私はもくしてたゞあゆみを運んだ。實際じつさいなんと云ツて可いやら、些と返答へんたうくるしんだからである。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
吾他われひとついに眠らん墓穴もかくやと思わるるにぞ、さすがにあゆみもはかばかしくは進まず。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
春枝夫人はるえふじん笑顏えがほ天女てんにようるはしきよりもうるはしく、あほ御空みそらにはくもあゆみをとゞめ、なみとり吾等われら讃美さんびするかとうたがはるゝ。この快絶くわいぜつときたちま舷門げんもんのほとりに尋常たゞならぬ警戒けいかいこゑきこえた。
あゆみおそむることもなく、急ぎもせずに、悠然と
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
その巌も海も、永遠に早い軌道のあゆみ
露地が、遠目鏡とおめがねのぞさま扇形おうぎなりひらけてながめられる。湖と、船大工と、幻の天女と、描ける玉章を掻乱かきみだすようで、近くあゆみを入るるにはおしいほどだったから……
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少しく後世ごせのことをかたりつゝ我等は斯く魂と雨ときたなまじれるなかをあゆみしづかにわけゆきぬ 一〇〇—一〇二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
氣候は一時いつときに驚くほど暑くなつて、午過ぎの往來には日傘を持たぬ通行の人が、早くも伸びて夏らしく飜へる柳の葉を眺め、人家の影の片側へと自然にあゆみを引寄せる。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
淡紅色ときいろ紋絽もんろ長襦袢ながじゆばんすそ上履うはぐつあゆみゆる匂零にほひこぼして、絹足袋きぬたびの雪に嫋々たわわなる山茶花さざんかの開く心地す。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
丁度てうど墓門ぼもんにでもいそぐ人のやうな足取あしどりで、トボ/\と其の淋しいあゆみつゞけて行ツた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
かの肅々しゆく/\として頑強にいただきを極めむとするあゆみを。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
蜘手くもでなし迷へるあゆみを繰り返す。
いかなる約束をもはたすことなき空しきさいはひかたちを追ひつゝそのあゆみまことならざる路にむけたり 一三〇—一三二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あわいもやや近くなり、声も届きましたか、お雪はふとあゆみとどめて、後を振返ると両の手を合せました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯一人薄暗い町家まちやつづきの小道をば三島門前みしまもんぜんほうへとぼとぼ老体のあゆみを運ばせたのである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あゆみもいとゞはやまさる
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
恩になる姫様ひいさま、勇美子が急な用というにさからい得ないで、島野に連出されたお雪は、屠所としょの羊のあゆみ
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六になる娘が清元きよもとをさらっているのを見て、いつものようにそっとあゆみめた。
あゆみもいとゞはやまさる
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
すそほこりあゆみの砂に、両側の二階家の欄干らんかんに、果しなくひろげかけたる紅の毛氈もうせんも白くなりて、仰げば打重うちかさなる見物の男女なんにょが顔もおぼろげなる、中空にはむらむらと何にか候らむ
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
をりからのたそがれに、しろし、めて、くる/\くる、カカカと調しらぶる、たきしたなる河鹿かじかこゑに、あゆみめると、其處そこ釣人つりてを、じろりと見遣みやつて、むなしいかれこしつきと
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
樹の下蔭にあらわれ出でつ、やおらあゆみを運ばして、雨戸は繰らぬ縁側へ、忍びやかに上りけるを、八蔵朧気おぼろげに見てもしやそれ、はてよく肖た婦人おんなもあるものだ、下枝は一室ひとまに閉込めあれば
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)