御前ごぜん)” の例文
可笑をかしなお話をいたしましたが、策伝さくでんの話より、一そう御意ぎよいかなひ、其後そののち数度たび/\御前ごぜんされて新左衛門しんざゑもんが、種々しゆ/″\滑稽雑談こつけいざつだんえんじたといふ。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「でも、ただ今は、御本丸へ、秀吉様がお越しになって、紀伊どのも、三左どのも、御前ごぜんでお話し中だといってるではありませんか」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胡見沢くるみざわ御前ごぜんがあんなにおなりになると、お蘭さんという人はどうでしょう——足もとの明るいうちに真先に逃げてしまいました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは几董きとう調です。前のと伯仲の間だと仰せられては落胆します。「御前ごぜんが馬鹿ならわたしも馬鹿だ、馬鹿と馬鹿なら喧嘩だよ。」
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
御前ごぜん谷の下およそ一里ばかりにして、内蔵助くらのすけ谷と相対して東から落ち込む沢といえば、赤沢である。すなわち栂谷は赤沢と同じ沢であることが分る。
さて其翌日そのよくじつさく御獻立ごこんだて出來上できあがさふらふはやめさせたまふべきか」と御膳部方ごぜんぶかたよりうかゞへば、しばしとありて、何某なにがし御前ごぜんさせられ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ダリヤが大層美事な出来でしたから褒めますと、御前ごぜんは来春球根を進呈しようと仰有いました。私は謹んでお礼を申上げました。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御前ごぜんつてゐました、左右さいうから二人ふたり兵士へいし護衞ごゑいされて、王樣わうさまのおそばには、片手かたて喇叭らつぱ片手かたて羊皮紙やうひし卷物まきものつた白兎しろうさぎました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と言ひさして、浜子を見やれば、浜子はなまめかしく仰ぎ見つ、「御前ごぜん、あのわたしのこと悪口書いた新聞でせう、御前、何卒どうぞかたきつて下ださいな」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
家屋敷は無論、人手に渡す覚悟で、思ひきり大きくやつておくれよ。あたしは、御前ごぜんと二人で、裏長屋に住んでみたいの。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
おばあさんは私の家にくると、いつも私のおりばかりしていた。そうしておばあさんは大抵私を数町先きの「牛の御前ごぜん」へ連れて行ってくれた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
都夫良つぶらはそれを聞くと、急いで武器を投げすてて、皇子おうじ御前ごぜんへ出て来ました。そして八度やたびおがんで申しあげました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
百石ひやくこくでも別當べつたうはこの土地とち領主りやうしゆで、御前ごぜんばれてゐた。した代官だいくわんがあつて、領所りやうしよ三ヶそん政治せいぢつてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
何處へ押出しても立派に「御前ごぜん」で通れるほどの身分となツて、腰は曲ツても頭は何時も空を向いてゐる人であツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
岬の東端の海中には、御前岩、俗に沖の御前ごぜんと云われている岩があって、蒼味あおみだった潮の上にその頭をあらわしていた。
真紅な帆の帆前船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「わたしはちっとも知らなかった。私たちは一緒に女官に任命されて、一緒に皇后さまの御前ごぜんに伺候したのに……」
御前ごぜんさまにも、警視庁のお方にも申上げました。今警視庁の方々が、築山のうしろを検べてお出でなさいます」
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
向島の言問ことといの手前を堤下どてしたりて、うし御前ごぜんの鳥居前を小半丁こはんちょうも行くと左手に少し引込んで黄蘗おうばくの禅寺がある。
六兵衛はとんまですからあまりおどろきませんでしたが、それでもおどおどしながら殿様の御前ごぜん平伏へいふくしました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
その老臣ろうしんは、つつしんで天子てんしさまのめいほうじて、御前ごぜんをさがり、妻子さいし親族しんぞく友人ゆうじんらにわかれをげて、ふねって、ひがしして旅立たびだちいたしましたのであります。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで天子てんしさまは阿倍あべ晴明親子せいめいおやこをおしになり、御前ごぜんじゅつくらべさせてごらんになることになりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
由良之助ゆらのすけが春のや(逍遥)で、若狭之助わかさのすけが鴎外で、かおよ御前ごぜんが柳浪、勘平かんぺいが紅葉で、美妙はおかるよ。力弥りきやさざなみ山人なの。定九郎さだくろうが正太夫なのは好いわね。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
御前ごぜんは銀の煙管を持つと坊主共の所望がうるさい。以来従前通り、金の煙管に致せと仰せられまする。」
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、これから後六日の間毎晩一度ずつ殿様の御前ごぜん演奏わざをお聞きに入れるようとの御意に御座います——その上で殿様にはたぶん御帰りの旅に上られる事と存じます。
耳無芳一の話 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
かれ男爵、ただ酒を飲み、白眼にして世上を見てばかりいた加藤の御前ごぜんは、がっかりしてしまった。
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「姐御、姐御、そう気が立っちゃあ話にならねえ。よ、これあ当家の御前ごぜんだ。めったなことを……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大蕪菜おおかぶな大鮒おおふな、大山芋などを並べ「遠国を見ねば合点のゆかぬ物ぞかし」と駄目をおし、「むかし嵯峨さがのさくげん和尚の入唐にっとうあそばして後、信長公の御前ごぜんにての物語に、 ...
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
御前ごぜん、訳ア御わせん。雪の上に足痕あしあとがついて居やす。足痕をつけて行きゃア、篠田しのだの森ア、直ぐと突止つきとめまさあ。去年中から、へーえ、お庭の崖に居たんでげすか。」
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
「三河でぐずり松平の御前ごぜんからきいた言葉をふと思い出した。屋敷へかえってあの菓子頂戴しながら、菊めにお茶なぞひとねじりねじ切らすかのう。ウフフ。如何どうぞ!」
貧と病いとに呪われている彼は、関白殿下の御前ごぜんにわが子を差し出すほどの準備がなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
りゅうなら竜、とらなら虎の木彫をする。殿様とのさま御前ごぜんに出て、のこぎり手斧ちょうなのみ、小刀を使ってだんだんとその形をきざいだす。次第に形がおよそ分明になって来る。その間には失敗は無い。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
毎日急ぎ足で学校へ通う道をぶらぶら歩いて、うし御前ごぜんの前を通り、常夜灯のある坂から土手へ上り、土手を下りて川縁へ出ると渡し場です。ちょうど船の出るところでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
この事を伝え聞くや態々わざわざ王の御前ごぜんに出頭し、姙娠中の婦女子が或る人の姿を思い込み、又、或る一定の形状色彩のものを気長く思念し、又、凝視する時は、その人の姿、又は
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
例えば上州の榛名湖はるなこにおいては、美しい奥方はいて供の者を帰して、しずしずと水の底に入ってったと伝え、美濃の夜叉やしゃヶ池の夜叉御前ごぜんは、父母の泣いて留めるのも聴かず
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
御前ごぜん、中宮、朱雀すざく院へまわるのに夜がけるために、今度は六条院へ寄ることを源氏が辞退してあった。朱雀院から引き返して、東宮の御殿を二か所まわったころに夜が明けた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
赤坂氷川あかさかひかわほとりに写真の御前ごぜんと言へば知らぬ者無く、にこの殿のづるに写真機械を車に積みてしたがへざることあらざれば、おのづから人目をのがれず、かかる異名いみようは呼るるにぞありける。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ほどでも御座りませぬ。御前ごぜんの御好物、蜜柑みかんを持ち戻りまして御座りますが——」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「でも、御前ごぜんがおでが無いのに、我々で参詣しても一向きょうが御座いませんから……」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
如何だね、自賛じゃないが、働きも此位やればまず一人前はたっぷりだね。それにお隣に澄まして御出おいで御前ごぜん如何どうだ。如何に無能か性分か知らぬが、君の不活動も驚くじゃないか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
政右衛門は、もとの処に待っていて、甲斐が近づくと、「御前ごぜんですか」と云った。
その少しまえ、向島で、うし御前ごぜんのまえで田代がそうしたように。——なぜならいまゝで展けていた河の光景けしき……あかるい河のうえの光景が急にそのときかれのまえに姿を消したから……
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
御前ごぜんは、悪固いことが一ばんおきらい。さあ、そこの席までおいでなさい」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
おこゝろざしのほど忝く存じますけれども、かようになりはてゝ何を花香かこうと世にながらえましょう、たゞ討死をとげるつもりでござりますから、御前ごぜんへよきなにお伝え下されと仰っしゃって
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「これは、御前ごぜん。御機嫌にわたせられ、恐悦至極きょうえつしごくに存じます、はい」
御前ごぜん様』がくたばれば大した遺産の分け前も約束されてゐるのだ。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
楊家やうかむすめ君寵くんちようをうけてと長恨歌ちようごんか引出ひきいだすまでもなく、むすめ何處いづこにも貴重きちようがらるゝころなれど、このあたりの裏屋うらやより赫奕姫かくやひめうまるゝことそのれいおほし、築地つきぢ某屋それやいまうつして御前ごぜんさまがた御相手をんあいて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何程いくらいふても此方こつちが知らぬ事なればかまいは無けれど御かみ御前ごぜんをつとの手前私しは面目めんぼくないぞへと云へば長庵大聲おほごゑあげ此女め今と成て御上の前夫の手前のはゞかるもよく出來できつれにげくれろの一しよに殺して呉ろのと言た事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あなたは御前ごぜんに平伏して、海岸一帯の地を10305
御前ごぜん、世の中は変わりまして御座います」
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
ちょうど牛の御前ごぜんのあたりへ来た時。