存分ぞんぶん)” の例文
平生へいぜいからあざけるものはあざけるが、心優こゝろやさしい衣絵きぬゑさんは、それでもどくがつて、存分ぞんぶんかしてむやうにとつた厚情こゝろざしなのであつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ツンとした瑛子は、赤い燃え立つような絹のブラウスを着て存分ぞんぶんに明けっ放しな顔に、老人の時代錯誤をあわれむような笑が浮びます。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いぬかわをかぶって、おせんのはだかおも存分ぞんぶんうえうつってるなんざ、素人しろうとにゃ、鯱鉾立しゃちほこだちをしても、かんがえられるげいじゃねえッてのよ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかるにおうとのぞみは、ついえずたちまちにしてすべてかんがえ圧去あっしさって、こんどはおも存分ぞんぶん熱切ねっせつに、夢中むちゅう有様ありさまで、ことばほとばしる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「どうだい、これは、自分じぶんはまあなんといふ幸福者しあはせものだらう。こんやは、それこそおも存分ぞんぶんはらぱいうまい生血いきちにありつけるわけだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
そこで余等も馬におとらじと鼻孔びこうを開いて初秋高原清爽の気を存分ぞんぶんいつゝ、或は関翁と打語らい、或はもくして四辺あたりの景色を眺めつゝ行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
だんだんと嫌疑が鈴江の方に向いて来るようなみちをとらせ、思う存分ぞんぶん、鈴江を脅迫し恐怖させた上で、最後に惨殺ざんさつしてやろうと思ったのである。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
くささらつちからつてくので次第しだいつちせてく。だから空手からてでは何處どこつても竊取せつしゆせざるかぎり存分ぞんぶんやはらかなくさることは出來できない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「朱泥は呈上可仕候つかまつるべくそうろう唐墨の方は進呈致兼候いたしかねそうろうあいだ存分ぞんぶん試用の後御返送を願上候ねがいあげそうろう」というのである。当然のことである。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それから後見こうけんけてもらうて、覺束無おぼつかなげにれい入場にふぢゃう長白つらねべるのもうれしうい。先方さき如何どうおもはうとも、此方こっち此方こっちで、おも存分ぞんぶんをどりぬいてかへらう。
「じぶんで乗りこんで、いいたいことを存分ぞんぶんに言ってやるがいいのさ。今からあたしが案内してあげよう!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お医者さんはそこいらじゅうの評判になって、名医めいいともてはやされ、お金も思う存分ぞんぶんとりこみました。
いなかでは思う存分ぞんぶんの修行ができぬので、かれはロンドンへでて、当時外科医として、第一人者に数えられていたジョン・ハンター博士はかせのもとに弟子入りをしました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
御出しなさいとははたからも云れぬなり若旦那にも存じ寄りありといはれし故にもかくにも離縁状は出されぬから何れとも御前方の存分ぞんぶんになさるがよいこゑあららかに云放いひはなしたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はちは、ついりるになって、そのばらのうえへとまり、いいにおいをおも存分ぞんぶんうことにしました。クリームいろうつくしいはなは、なんの心配しんぱいもなさそうに、愉快ゆかいげにえます。
はちとばらの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
云うまでもなく、それは、向うの窓の黄色い顔の奴に、僕がそこにいることを知らせる為ですが、僕の方からは、決してうしろを振向かぬ様にして、相手に存分ぞんぶん隙を与える工風くふうをしました。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
泣くことなら、あす、きみのでていったあとで、存分ぞんぶんに泣けるからな。
お殿様のお申しつけでは、存分ぞんぶんにおくつろがせ申せということでございました、もっとお寛ぎくださいませ。そんなふうに四角にお坐りになっていられたのでは、お寛がせ申したことにはなりません。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
してまたばくたるなでさすりで、わたしを存分ぞんぶんいておくれ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
思ふ存分ぞんぶんしかりつくる人あれと思ふ。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかるにはうとのぞみは、つひえずたちまちにしてすべてかんがへ壓去あつしさつて、此度こんどおも存分ぞんぶん熱切ねつせつに、夢中むちゆう有樣ありさまで、ことばほとばしる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼等かれらさらはるいたつたことを一さい生物せいぶつむかつてうながす。くさこゝろづいて活力くわつりよく存分ぞんぶん發揮はつきするのをないうちはくことをめまいとつとめる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
勲章など貰っても、持って帰るのに面倒めんどうだから、いやじゃ。それよりも、当国とうごく逗留中とうりゅうちゅうは、イギリス製のウィスキーを思う存分ぞんぶんませてくれればそれでよろしい。
ロミオ あゝ/\! こひめは始終しゞゅう目隱めかくしをしてゐて、けれども存分ぞんぶんそのまとをばとめをる!……え
だがね、親分、繪を描いただけでさへ、あんなにいゝ心持なんだから、此方から金を出しても、あの羽二重のやうな肌へ、存分ぞんぶん圖柄づがらつて見たいと思ひましたよ
存分ぞんぶんに取り締ることも処分することも出来るし、また、それが大目附の役儀でもあるのだが、やれ少々膝をくずしたの、雑談をしていたの、欠伸あくびをしたのということは
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ばかな、このおおきなくまにおも存分ぞんぶんさけませるなんて、そんなさけがどこにあるか。かみさまは、この瀬戸際せとぎわで、おれが、どれほどの智恵者ちえしゃであるか、おためしなされたのだ。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今夜こそ思ふ存分ぞんぶん泣いてみむと
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
諸君しょくんは、なんという幸福者こうふくものだ。じつに、いいときにまれて、天皇陛下てんのうへいかのために、おくにのために、つくすことができるのだぞ。よろこんでいさんで、おも存分ぞんぶんはたらきをしてもらいたい。
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
季節きせつじゆくさねば收穫しうくわく多量たりやうのぞむことが出來できないので、彼等かれら食料しよくれうとしてはたけをつけるのはすべてが存分ぞんぶん生育せいいくげたあとでなければならぬ。其處そこ相互さうごぬすむものをしてじようぜしめる機會きくわいである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ヂュリ かへらぬことゝおもうても、存分ぞんぶんかいではをられぬ。