大分だいぶ)” の例文
かう云ふ問題が出たのですが、実を云ふと、わたし生憎あいにくこの問題に大分だいぶ関係のありさうな岩野泡鳴いはのはうめい氏の論文なるものを読んでゐません。
ナニ板の古いのがありましたからチヨイと足を打附うちつけて置いたので。「成程なるほど早桶はやをけ大分だいぶいのがあつたね。金「ナニこれ沢庵樽たくあんだるで。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
はげしいヒステリイ症の女で前の航海には船医が大分だいぶ悩まされたと話して居る。その女が今夜突然また此処ここから上海シヤンハイへ引返すと言出いひだした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
深田でもたいへん惜しがって、省作が出たあとで大分だいぶめたそうだ、親父おやじはなんでもかでも面倒を見ておけというのであったそうな。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その頃から見ると私も大分だいぶ大人になっていました。けれどもまだ自分で余所行よそゆきの着物を拵えるというほどの分別ふんべつは出なかったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
原田氏はらだし星亨氏ほしとほるし幕下ばつか雄將ゆうしやうで、關東くわんとうける壯士さうし大親分おほおやぶんである。嶺村みねむら草分くさわけ舊家きうけであるが、政事熱せいじねつ大分だいぶのきかたむけたといふ豪傑がうけつ
「十三囘忌くわいき、はあ、大分だいぶひさしいあとの佛樣ほとけさまを、あのてあひには猶更なほさら奇特きとくことでござります。」と手拭てぬぐひつかんだを、むねいてかたむいて
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その頃雜誌ざつし青鞜せいたう」はうまれ、あたらしい女といふことが大分だいぶやかましくなつてまゐりました。けれど私達は初めからそれを白眼はくがんでみました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
勘次かんじ利根川とねがは開鑿工事かいさくこうじつてた。あきころから土方どかた勸誘くわんいう大分だいぶうまはなしをされたので近村きんそんからも五六にん募集ぼしふおうじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
叔母のかたをばんでいるうち、夜も大分だいぶけて来たので、源三がついうかりとして居睡いねむると、さあ恐ろしい煙管きせる打擲ちょうちゃくを受けさせられた。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もう夜も大分だいぶけて、ちょうど十時半になっていた。昨日の今頃突如として起った射殺事件のことを思いだして、いやな気持になった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういう隠居も大分だいぶ年をとったが、しかし元気は相変わらずだ。この宿屋には隠居に見比べると親子ほど年の違うかみさんもある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白山は益々ますますはっきりして来ました。さっきの白帆が大分だいぶ大きくなって、しまきが沖の方からだんだんこちらに近づいて来ました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
大分だいぶ流行遅れの品ではありましたが、なかなか立派な、若い女の持っていたらしいものでした。私が一向知らないと答えますと
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてお玉が尋ねて来そうなものだと、絶えずそればかり待っている。ところがもう大分だいぶ日が立ったのに、お玉は一度も来ない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
一つの神さまのおやしろへ、百度二百度のお参りをする代りに、つづけて数多くの宮をまわってあるくというふうも、大分だいぶ前からはじまっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「はあ、ちょっと寄って来ました。——大分だいぶ血色も直りかけたようです。おっかさんに済まないッて、ひどく心配していましたッけ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
これでい。(安心したるらしき様子にて二三歩窓の方にき、懐中時計を見る。)なんだ。まだ三時だ。大分だいぶ時間があるな。
此大きな無遠慮な吾儘坊わがままぼっちゃんのお客様の為に、主婦は懐炉かいろを入れてやった。大分だいぶおちついたと云う。おそくなって風呂がいた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
母もその頃は大分だいぶ弱っておりましたので、相当なものがあれば、早く身を固める方がよいと思っておったことと思われます。
かゝる誤りは萬朝報よろづてうはうに最もすくなかつたのだが、先頃さきごろほかならぬ言論欄に辻待つぢまち車夫しやふ一切いつせつ朧朧もうろうせうするなど、大分だいぶ耳目じもくに遠いのがあらはれて来た。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
四六ばんから四六ばいの雑誌にうつまでには大分だいぶ沿革えんかくが有るのですが、今はく覚えません、印刷所いんさつじよ飯田町いひだまち中坂なかさか同益社どうえきしやふのにへて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さるころはがきにて處用しよようと申こしたる文面ぶんめんおとことほりにて名書ながきも六ざうぶんなりしかど、手跡しゆせき大分だいぶあがりてよげにりしと父親ちゝおやまんより
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さて、事件が大分だいぶ複雑化して来たなと一人で決め込んだ私の眼の前へ、車のドアはいして元気よく飛び出した男は、ナントが親友青山喬介だ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
合憎あいにくわれとは大分だいぶはなれて居たのでよくは分らぬが、年は廿七、八まだ三十には成るまい、不絶しじゆう点頭勝うつむきがちに、こちらにけて腰かけて居る
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
でも今日は大分だいぶよろしゅう御座いますから、早速御返事申上げて置こうと、床の中での乱筆よろしく御判読願い上げます。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
大久保おほくぼが、奈美子なみこうつくしいかみを、剃刀かみそりはさみでぢよき/\根元ねもとからまつたつてしまつたことは、大分だいぶたつてからつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「はあ、お庇様かげさま大分だいぶほうで……。何、大丈夫だとお医者も云って居ますが……。何しろ、一時はきもを潰しましたよ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
円い月は形が大分だいぶちいさくなって光があおく澄んで、しずかそびえる裏通りの倉の屋根の上、星の多い空の真中まんなかに高く昇っていた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なにをおたずねしたか、いまではもう大分だいぶわすれてしまいましたが、標本みほんのつもりでひとふたおもしてることにいたしましょう。
じぶんのはまだまだ大分だいぶ大きいだろうと思って、お医者がこう言うと、死神は、いまにも消えそうな、ちいっぽけな蝋燭ろうそくの燃えのこりをゆびさして
国道沿線に五六軒の家作かさくを建てたりして裕福に暮らしてゐたのだつたが、福子のことでは大分だいぶ今迄に手を焼いてゐた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
貞吉ていきちという小僧が、こくりこくりと居寐いねむりをしていたので、急いで内へ飛込とびこんで、只今ただいまと奥へ挨拶をすると主人は「大分だいぶ今夜は遅かったね」と云うから
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
南さんは大分だいぶに大きくなるまでおけし頭でした。しかし私がまだおたばこぼんをつて居た時分に、南さんはおけしの中を取つて蝶々髷てふ/\まげに結つて居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
列車が着くと、これは青森上野間の直行なので車内は大分だいぶ込んでゐる。二人の外には乗る者も、降りる者もない。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かけコレサ音吉殿どん大分だいぶいそがしさうだが何所へ行のだと尋ぬれば音吉は振返ふりかへり今日は大旦那が關宿せきやどの庄右衞門樣の方へ米の代金を取に參られますゆゑ是からとも
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
痰と生薑とに何かの因縁いんねんがあるやうにも思へたがそれがをさない僕には分からない。それから大分だいぶつて僕は東京にのぼるやうになり、好んで浪花節なにはぶしを聞いた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
で、あちらこちらと尋ね得られる限りは大分だいぶ尋ねてみたですが、なお細かな部分に至っては不明の点も大分にあるです。この事は始めから断って置きます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それはキリストけう教會けうくわい附屬ふぞく病院びやうゐんなので、そのこといては、大分だいぶ異議いぎ持出もちだしたものもあつたが、この場合ばあひこくも、病人びやうにん見過みすごしてことはできなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
人としては不具者であるも、仕事をしてしゅうすぐれたならば、それで甘んじて死すべきか。この問題になるとおそらく人々の考えに大分だいぶの相違があるであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「私にもはつきり分らんけど、もう大分だいぶ長いこと留守だつたやうに思ふわ、お正月を三度もお父さんがおらんのだもん、もう顔も何も忘れてしまうた…………」
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
こまかいので……。大分だいぶあるぞ……。十、二十、三十……九十……と……四……五……六……。二十……七……。間違ひないね。帳面と引合せよう。あとにするか。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ヨーロッパではみなみほうにははやてつがはひつてましたが、北方ほつぽうのデンマルクやスエーデンやノールウエなどでは、てつのはひつてるのが大分だいぶおそかつたがために
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「馬に念仏申しても、利目ききめがなさそうでございます。そこでおさらばと致しましょう。もう日も大分だいぶ暮れて来た。ねぐらへ帰ったら夜になろう。ご免下され、ご免下され」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蟹は不思議に思って、大分だいぶ不自由になった足を動かして、その光の漏れる穴のところへ行ってみました。穴はかなりに大きくて、蟹はすぐそこからい出すことが出来ました。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
物凄ものすごかったり気味悪かったりする大分だいぶ深刻しんこくな怨みであって、それは秋の暮とでもいう心持にふさわしいであろうが、この選者を恨む歌の主の怨みはそれほど深刻ではなくって
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
独言ひとりごとのようにつぶやいた。なるほど風が大分だいぶ強くなって雨さえ降りだしたようである。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ただその風というものが実はたれかの昔いた息であったのだ。僕の息でなければ外の人の息であったのだ。ほんに君と僕とは大分だいぶ長い間友人と呼び合ったのだ。ははあ、何が友人だ。
われわれとて、軒並食って歩いたわけではないが、通りがかりに横目よこめで見て、上・中・下どんな寿司を売る店か分るのである。もちろん、こうなるまでには、大分だいぶ寿司代をはらっている。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
... だれいてるものがなかつたので一そう復習ふくしふをするに都合つがふでした)『——さア、大分だいぶ人里ひとざととほはなれた——緯度ゐど經度けいどへんまでてるでせう?』(あいちやんは緯度ゐどなにか、經度けいどなにか、 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)