鼻息びそく)” の例文
それが去年、硫黄島から解かれて帰洛してからは、がぜん羽振りをふるい出し、公卿といえ武家といえ、彼の鼻息びそくを怖れぬはないほどだった。
課長の鼻息びそくうかがわなければならん。そんな事は我々には出来んじゃ有りませんか
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
予は叫ばむとするに声でず、蹶起はねおきて逃げむとあせるに、磐石一座ばんじやくいちざ夜着を圧して、身動きさへもならねば、我あることを気取らるまじと、おろか一縷いちる鼻息びそくだもせず、心中に仏の御名みなとなへながら
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「皇統の選びなどは、わが家のことに過ぎん。——後嵯峨ごさがこのかた、九十年もの間、幕府の鼻息びそくを恐れて、いちいちそれに問うて来たなど、愚の限りぞ」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といっても、常備二百人以上はいる警兵のあらましは、清高の家来であり、また地方じかた武士にしろその十中八九までは、鎌倉の鼻息びそくをおそれる者でしかない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、勝家の憐愍れんびんにすがるしかなかった。しかし、彼はなお一つの献策をもって、勝家の鼻息びそくをうかがい、功をつないで、恩賞の約を追うことを忘れなかった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、あらそって、彼の鼻息びそくび、賄賂わいろをはこぶなど、浅ましいばかりな繁栄なのだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左の手で小次郎の鼻息びそくをそっと触れてみた。微かな呼吸がまだあった。武蔵はふと眉を開いた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ま。くちおしい限りではございませぬか。万乗の大君をして、さまで幕府の鼻息びそくおもねるような策をおすすめ申さいでも、毎日の公卿集議には、もそッとほかによいお智恵も」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
如才じょさいない政治家だの民衆の鼻息びそくばかりうかがっている大臣などは、いつの世でも民衆は見ていたくない。民衆の本能は、高い廟堂びょうどうにたいして、やはり土下坐どげざし、礼拝し、歓呼かんこして仰ぎたいものである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)