黒襟くろえり)” の例文
黒襟くろえり半纏はんてんのまんま、長火鉢のまえから引っ立てられて行った姿は、なに、水の垂れるほどじゃあなかったが、ちょいとした女だったそうだ。
葉子と顔を見合わした瞬間には部屋へやを間違えたと思ったらしく、少しあわてて身を引こうとしたが、すぐ櫛巻くしまきにして黒襟くろえりをかけたその女が葉子だったのに気が付くと
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は柳屋の娘というと黄縞きじま黒襟くろえりで赤い帯を年が年中していたように印象されている。弟のせいちゃんは私が一番の仲よしで町ッ子の群れのうちでは小ざっぱりした服装なりをしていた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
顔を洗う所などで落ち合う時、敬太郎は彼の着ている黒襟くろえりの掛ったドテラが常に目についた。彼はまた襟開えりあきの広い新調の背広せびろを着て、妙な洋杖ステッキを突いて、役所から帰るとよく出て行った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勇ましくて美しい車掌さん! 笑わないで下さいね。なまめかしく繻子しゅす黒襟くろえりを掛けたりしているのですが、私だって、貴女みたいにピチピチした車掌さんになろうとした事があったんですよ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
溝のごとく深い一線の刀痕——黒襟くろえりかけた白着に、大きく髑髏しゃれこうべの紋を染めて、下には女物の派手な長襦袢ながじゅばんが、たけぼうみたいなやせすねにからまっている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と当てのはずれた腹立ちまぎれにトンと一つ黒襟くろえりを突きあげて、相手なしの見得を切ったが。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)