黒八丈くろはちじょう)” の例文
私は黙って座敷へ帰って、そこに敷いてある布団ふとんの上に横になった。病後の私は季節に不相当な黒八丈くろはちじょうえりのかかった銘仙めいせんのどてらを着ていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お延のこしらえてくれた縕袍どてらえり手探てさぐりに探って、黒八丈くろはちじょうの下から抜き取った小楊枝こようじで、しきりに前歯をほじくり始めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二階には今まで須永の羽織っていたらしい黒八丈くろはちじょうえりの掛ったどてらが脱ぎ捨ててあるだけで、ほかに平生と変ったところはどこにも認められなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
相変らずの唐机とうづくえを控えて、宗近のおとっさんが鬼更紗おにざらさ座蒲団ざぶとんの上に坐っている。襯衣シャツを嫌った、黒八丈くろはちじょう襦袢じゅばんえりくずれて、素肌に、もじゃ、もじゃと胸毛が見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
津田はけむに巻かれたような顔をして、黒八丈くろはちじょうえりのかかった荒い竪縞たてじま褞袍どてら見守みまもった。それは自分の買った品でもなければ、こしらえてくれとあつらえた物でもなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)