鬱気うつき)” の例文
旧字:鬱氣
井戸一帯に燐の粉がこぼれて、それに鬱気うつきを生じ、井戸の中、ふたの石、周りの土までが夜眼にも皓然こうぜんと輝き渡っていたその理を、彼は不幸にもわきまえなかったのだ。
あの、気の弱い、すんなりほそったかたちで、せきにまじって出る血を、人目に隠しながら、いつも鬱気うつきでいたお米——それと目の前の人とがどう考えても、同じだと思われなかった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だまれ。いまほどな酒で酔いはいたさぬ。ほんの鬱気うつきさんじるため、薬湯代やくとうがわりに、折々、用いているまでだわ。この高時に酒進さけまいらせぬと、わが軍の士気は揚がらぬぞ、はははは」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などと、かたりで、中華ではしんのころから紳士のあいだで愛飲されだして、唐の陸羽りくうは、茶経さきょうという書物しょもつさえあらわしている。また、鬱気うつきを散じるによく、血滞けったいを解くによろしい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)