鬚面ひげづら)” の例文
と、大隅の前に立ったのは、鬚面ひげづらに黒眼鏡を掛け、やや肥満せる身体を白い麻の洋服に包み、形のいいヘルメット帽子を被っている紳士だった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
初め、赭顔あからがお鬚面ひげづらのその容貌ようぼうを醜いと感じたおれも、次の瞬間には、彼の内からあふれ出るものに圧倒されて、容貌のことなど、すっかり忘れてしまった。
それを聞くと会員達は皆ハッとして話手の鬚面ひげづらを見たが、殊に黒川先生は顔色を変えてビクッと身動きされた。僕も真青まっさおになる程驚いていたに違いない。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それを相手にせず、からだを前後左右にゆすぶって小唄こうたをうたい、鬚面ひげづらの男は、声をひそめて天下国家の行末をうれい、またすみの小男は、大声でおのれの織物の腕前を誇り
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は又ギックリとさせられながら、そう云う青木のニヤニヤした鬚面ひげづらをふり返った。どうして私の夢を透視したのだろうと疑いながら、その脂肪光りする赤黒い顔を凝視した。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
髪の乱れた肥ったかかあが柱によりかかって、今年生まれた赤児あかごに乳を飲ませていると、亭主らしい鬚面ひげづらの四十男は、雨に仕事のできぬのを退屈そうに、手を伸ばして大きなあくびをしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その声を、今度は鬚面ひげづらでおさえてしまいました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこへ兵庫島が来合わせて鬚面ひげづらを出しました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
汪然おうぜんとして涙は時雄の鬚面ひげづらを伝った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)