たぶら)” の例文
「おお賭け試合の勝ちビラと見えて、いろいろな剣客の名が見えるが、どうせ衆愚をたぶらかす山師の客引き、あてになるものではござるまい」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正面から飛びかゝつて父から、手ひどく跳付はねつけられた悪魔は、今度は横合から、そつとたぶらかさうと掛つてゐるのだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そして世界の各国へ阿片窟の支部を設立し、世界中の人間を堕落させて、そして自分が全世界を征服するのだなどと高言して、愚民をたぶらかしていたそうです。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
愚民をたぶらかして坐食しておる坊主と商人、どっちも肉の柔いことだろう。臆病者め、そこ退けっ!
養家の恩にそむいてまで、あんな宿借やどかり女の偽態ぎたいの愛にたぶらかされてしまうものであろうか。——家成はなさけなくもなるし、腹が立ってならなかった。
正面から飛びかゝって父から、手ひどく跳付はねつけられた悪魔は、今度は横合から、そっとたぶらかそうと掛っているのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
淫酒をもってたぶらかす鳰鳥におどりと申す殿の側女そばめを殿のもとから遠避けようと、血気に任せてご酒宴席へ乱入致そうといたしたため、父の勘気を受けましたまで、他に仔細はございませぬ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「武蔵! ……れは、似非えせ善人じゃの。そのような甘い言葉にたぶらかされて、怨みを解くようなわしではないぞ。……無駄なこと、耳うるさいわい」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「人を増しても、とても成就はせぬことじゃ。あたら、了海どのにたぶらかされて要らぬ物入りをした」
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「さような訳でございますなら、侍冥利さむらいみょうりかないました立派な行いではございませぬか。それはそれとして鳰鳥とかいう、殿をたぶらかすそのおんな、どのような毒婦なのでございましょう?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何せよ、今思い合してみると、あの髪結かみゆいの鶴吉というのは、売笑婦の置屋おきやであったり、また世間見ずの女をたぶらかして来るぽん引きと呼ぶ渡世の人間です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)