首縊くびくく)” の例文
その堤の松には首縊くびくくりの松などといういやな名の附いていたのもあった。野犬が巣を作っていて、しばしば往来の人をんだ。ぎも出た。
三崎町の原 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
イヤだねエ、二つや三つの子が首縊くびくくりや身投げをするものか。物好きに石を踏台にして井戸を覗いて、グラリとやったのさ。
少し話して行けと云うたら、また近所きんじょさけが出来たからと云うて、急いで帰った。鮭とは、ぶら下がるの謎で、首縊くびくくりがあったと云うのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかしそれ等の話の中でも最も僕を動かしたものは「御維新」前には行き倒れとか首縊くびくくりとかの死骸を早桶はやをけに入れ、その又早桶を葭簀よしずに包んだ上
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「よく人の云う事を疑ぐる男だ。——もっとも問題は団栗どんぐりだか首縊くびくくりの力学だかしかと分らんがね。とにかく寒月の事だから鼻の恐縮するようなものに違いない」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
元からよくない所なので、あのかしわの木も、此度こんど丁度ちょうど三人目の首縊くびくくりだ、初めさがった時、一の枝を切ると、また二の枝に下ったので、それも切ると、此度こんどは実に三の枝でやったのだ
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
赤坂離宮横、喰違い見附の向うの土手には、首縊くびくくりの松という松があった。実際よく死んだらしい。太い枝が、土手の傾斜に添うて、人間のたけより少し高く、工合よく突き出ていた。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
ある時は赤々と日のそそぎやまぬ首縊くびくくりの家を見れてゐたり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかし昔の希臘人ギリシャじんは宴会の席で首縊くびくくりの真似をして余興を添えたと云う話しがある。一人が台の上へ登って縄の結び目へ首を入れる途端にほかのものが台を蹴返す。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最初は小火ぼや首縊くびくくりを嗅ぎ廻ったり、すりやかっ払いを追い廻したり、それが次第に手に入って来ると初めて大きな犯罪事件や、文化芸術の記事や、名士の訪問や、政治経済の方面や
北は水道橋に沿うた高いどてで、大樹が生い茂っていた。その堤の松には首縊くびくくりの松などといういやな名の付いていたのもあった。野犬が巣を作っていて、しばしば往来の人をんだ。追剥おいはぎも出た。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
土手の上に松は何十本となくあるが、そら首縊くびくくりだと来て見ると必ずこの松へぶら下がっている。年に二三べんはきっとぶら下がっている。どうしてもほかの松では死ぬ気にならん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)