風付ふうつ)” の例文
額の上に禿げ残った毛を真中からテイネイに二つに分けて、詰襟つめえりの白い洋服を着ていたが、トテモ人のいい親切らしい風付ふうつきで
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
酒なぞ一度も飲んだ事のない福太郎のオズオズした坊ちゃんじみた風付ふうつきに、お作の方から人知れず打ち込んでいたものらしい。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかも、そうした前後の服装の態度の変化がチットも不自然じゃない。慣れ切っている風付ふうつきを見ると、一筋縄で行く曲者くせものじゃなさそうだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「このごろトシ子さんの風付ふうつきのスッキリして来たこと……それでこの東京に来た甲斐かいがあるわ……ネエあなた……」
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
世界中の言葉を使ってクルクルと働きまわる男、機関長は理窟っぽいコルシカ人と聞いたが成る程、憂鬱そうな風付ふうつきがどこやらナポレオンに似ていた。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云ううちに、やおら背後うしろ華奢きゃしゃ籐椅子とういすを振り返って、ソロソロと腰をおろしたのであったが、その風付ふうつきを見ると私は又、思わず眼をらさずにはいられなかった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は、その如何にも学者然たる冷やかな風付ふうつきに、云い知れぬ反感をそそられない訳に行かなかった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何かだますかすような風付ふうつきで、耳に口を当てて二言三言云いながら、サッサと若旦那の手を引いて、離家はなれに連れ込んで寝かして御座るのが、私の処からよく見えました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「何か考え事に夢中になっている様子で、へやの中に誰が居るか気が付かぬ風付ふうつきでございました。そうしてぼんやりとした当てなし眼をしながらぶつぶつ独言ひとりごとを云っておりました」
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして愛のために盲目になって、常識を失っているこの女に対して、かえって云い知れぬ憐れみの情を動かしたらしく、今までよりも亦、ずっと砕けた、親し気な風付ふうつきに変った。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは二階の美人画とは全然正反対の風付ふうつきをした少女であったが、それでいてF市界隈は愚か、東京あたりにでも滅多に居ないシャンであろうことが、世間狭い私にも容易にうなずかれた。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女はもうその時に田の畦を渡りつくして、半町ばかり向うの線路に出ていたが、軌条レールの横の狭い砂まじりの赤土道を、汽車の来る方向に、さり気なく、気取った風付ふうつきで歩いて行くようすである。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何のわだかまりもない風付ふうつきで私にシャンパンのコップをすすめた。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)