顧眄こべん)” の例文
道士は予等の為めに祭典の日に用ひる華文紅錦の道服を著けて顧眄こべんの態を為して見せた。それを珍しがる予等と彼れと何れが田舎者であるか分からなかつた。
作者之が為に踟蹰ちちゆうし、演者之が為に顧眄こべんせば、大なる劇詩は不幸にして望むべからざるに至らんか。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
互いに顧眄こべんの心があるので、敵ながらすぐ弓やほこに物をいわせようとせず、二、三の問答を交わしているうちに、下邳かひのほうから高順こうじゅん侯成こうせいが助けにきてくれたので
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
威風堂々としてあんつて顧眄こべんするの勇を示す、三十余年以前は西国の一匹夫いちひつぷ、今は国家の元老として九重こゝのへ雲深きあたりにも、信任浅からぬ侯爵何某なにがしの将軍なりとか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
他の者の意嚮いこう顧眄こべんしなければならない。それは今の自分のもはや堪え得るところではない。自分は自分のみに完成し、飽和する生活を建てたい。それこそ真に確実にして、安定せる生活である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
徒らに人間の手を以て造化の力を奪はんとするなかれ、進むべき潮水は遠慮なく進むべし、退くべき潮水は顧眄こべんなく退くべし、直ちに馳せ、直ちにはしり、早晩大に相撞着することあるを期すべし
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
吾人は東洋の一端に棲居するが故に欧洲の大勢を顧眄こべんするの要なしと信ずる一種の攘夷論者の愚を、笑はんとす、世界は日にせばまり行きて、今日の英国は往日の英国の距離にあらざる事を思ふべし
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)