面立おもだ)” の例文
読者は上述の説明を読んでどういう風な面立おもだちをかべられたかおそらく物足りないぼんやりしたものを心にえがかれたであろうが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それによく似た年ごろ恰好かっこうの子女にであってごらんなさい、われ知らず前へまわって、その面立おもだちを見定めなければ立去れないことがある。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
分前髪わけまえがみの、面立おもだちのりりしい、白粉おしろいのすこしもない、年齢よりはふけたつくりの、黒く見えるものばかりを着た、しっとりとした、そのくせしっかりとしたところのある
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その面立おもだちは見きわめるよしもないが、切れ長のうつくしい目がやきつくように栄三郎のおもてに射られて、それが、単に気のせいか、なみだにうるんでいるごとく栄三郎には思われるのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼女は三人のうちで一番年が若く、十六か七くらいに思えた。顔も圓顔の、無表情な中にも自然と愛嬌あいきょうのある面立おもだちをしていた。
兵馬はあきれてしまいました、この面立おもだちの可愛げな少年が、山へ行って狼と遊び、狼がそのあとを慕うて離れないというのは奇怪ではないか。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その衣裳と面立おもだちとはどうしても釣合わないことが、この際、誰にも認められることになるのはやむを得ませんでした。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その奉書紙ほうしょがみのような白い頬に三分の酔いを発しているのが、典型的な、やゝ固過かたすぎる面立おもだちに、云うに云われない婀娜あだっぽさを添えているのであるが、それにしても
炉へ火をたいて、わたしを温まらせながら、わたしの顔を見て、にっこりと笑った眼の細い、頬のたっぷりとした、蔭や、毒というものの微塵みじんも見えないあの面立おもだち。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふっくらとした面立おもだちを伏せて、早く恐ろしいものゝ通り過ぎるのを祈っているような風であったが、河内介は、彼女の肩を蔽うているつや/\しい黒髪と、膝の上に置かれた手の
いい娘でした、少しさびしみのある面立おもだちをしておりましてな。