陰惨いんさん)” の例文
旧字:陰慘
瞑目めいもくをして考えている。陰惨いんさんとしていた顔の上に、歓喜の色が浮かんだのは、明るい希望が湧いたからでもあろう。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
陰惨いんさんにかれの精神のまえに浮動しながら、かれのうちにいろんな希望を——不可解な、理性を乗り越えた、そして奇怪な甘さをもつ希望を、もえ立たせた。
一ぽうの中庭からほのかな日光ははいるが、座中陰惨いんさんとしてうす暗く、昼から短檠たんけいをともした赤い光に、ぼうと照らしだされた者は、みなこれ、呂宋兵衛るそんべえの腹心の強者つわものぞろい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもその頭脳の中には、詰めきれないほど残ってる試験の課題が、無制限の勉強をいているのである。そうした青年時代の生活は実にただ「陰惨いんさん」という一語によって尽される。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
眼はカッと宙をにらんで、頬からひたいに化石した苦悩のしわ、眼鼻立は立派で、決して醜い方ではありませんが、ヒステリックで、陰惨いんさんで、偏執狂へんしゅうきょうなどによくある、ゆがんだ顔からくる不気味さは
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いかにも血なまぐさい事件のあった家らしく、陰惨いんさんな空気が満ちていた。
従って進歩の所縁よすがとなるべき関係以外は、全然その存在を認められない。かのいたずらに地上生活を陰惨いんさんならしめ、いたずらに魂の発達を阻害する人為的束縛は、肉体の消滅と同時に、跡方もなく断絶する。
そして彼らいよいよ来り見ればあまりに陰惨いんさんなる有様よ! あまりに大なる変化よ! 町の外にわれて乞食の如く坐し悪腫全身を犯すその惨状よ! 疑うヨブあるいは隠れたる大罪を犯してこのわざわい
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
陰惨いんさんな灰色の天地から、都鳥なく吾妻あずまの空へ……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
見るからにゾッとするような陰惨いんさん邸宅ていたくだった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
四十そこそこの陰惨いんさんな忍従に叩き上げられたような蒼黒い男です。
われわれはその歌の陰惨いんさんさに途方にくれた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)