錻力ブリキ)” の例文
ストーヴが勢よく燃えてゐるのを見るのは、何年ぶりだらうと、ゆき子は青く光つた錻力ブリキの煙突に、ちよいちよいと指先で触れてみた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
二年ぜんの記憶をまざまざと喚び起した私は、顔の皮膚が錻力ブリキのようにこわばるのを感じた。お辞儀を返したかどうか記憶しないまま突立っていた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは故意か偶然か、変電所の壁を通って向いの家のひさしへ渡り、其の端が錻力ブリキで作ったといに触れていたのである。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それだのに、お千世に口の掛からない時は、宵から、これは何だ、と阿婆が茶の缶の錻力ブリキを、指ではじいて見せると云うまで、清葉は聞伝えているのであった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちの一人が錻力ブリキを叩くような声で命令した。彼は奴隷のように柔順にだまって出て行った。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「あんたの同棲してゐる女は今宮の錻力ブリキ職人の娘で、喫茶店にゐた女やいふさうやが、あんたは親戚中の面よごしや。それも器量のええ女やつたら、まだましやが……。」
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
支那人は、錻力ブリキで特別に作らせた、コルセット様の、ぴったりと人間の胴体に合う中が空洞となった容器に、酒精を満し、身肌につけて、上から服を着、何食わぬ顔で河岸からあがってきた。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
朝さむきマルセーユにて白き霜錻力ブリキのうへに見えつつあはれ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
雪江の父は今宮で錻力ブリキの職人をしてゐるが、十八の歳、親孝行だから飛田の遊廓へ行けと酒を飲みながら言はれたので、家を飛び出して女工をしたり喫茶店に勤めたりした挙句あげく
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
物置きは、三坪ばかりで、部屋の部分は、新しい錻力ブリキの巻いたのがしまひ込んであつた。天窓が一つあるきりで、電気も水もない。荒物屋では、古い畳を二畳ほど敷いてくれた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
うつははたとへ、ふたなしの錻力ブリキで、石炭せきたんくささいが、車麩くるまぶたの三切みきれにして、「おいた。まだ、そつちにもか——そらた。」で、帆木綿ほもめんまくしたに、ごろ/\した連中れんぢうくばつたにせよ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)