鋳出いだ)” の例文
使いをやって正金しょうきん銀行で換えた金貨は今鋳出いだされたような光を放って懐中の底にころがっていたが、それをどうする事もできなかった。葉子の心は急に暗くなった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
暗い中で自分をあやつっている運命の糸と、どんな関係をっているか、固より想像し得るはずがないので、ただそこに鋳出いだされた模様と、それがしまってあった袋とを見比べるだけで
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時は何とも思わなかったが、今この説明を読んで見ると、やはり穴一の系統に属するものらしい。穴一銭と称して両面に恵比須大黒えびすだいこくだの、富士山だのを鋳出いだしたものがあったという。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
翌晩あくるばんも、また翌晩も、連夜まいよの事できっと時刻をたがえず、その緑青で鋳出いだしたような、蒼い女が遣って参り、例の孤家へ連れ出すのだそうでありますが、口頭くちさきばかりで思い切らない、不埒ふらちな奴
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
面赭かおあかく、耳あおく、馬ばかりなる大きさのもの、手足に汚れた薄樺色うすかばいろの産毛のようで、房々としてやわらかに長い毛が一面の生いて、人かけだものかを見分かぬが、朦朧もうろうとしてただ霧をつかねて鋳出いだしたよう。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)