鉄面皮てつめんぴ)” の例文
旧字:鐵面皮
(彼がひょいと、口をすべらしたのかもしれない。そのくらいの鉄面皮てつめんぴさなら、ありあまっている彼のことだから)——
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
知己の者はこの男の事を種々さまざまに評判する。あるいは「懶惰らんだだ」ト云い、或は「鉄面皮てつめんぴだ」ト云い、或は「自惚うぬぼれだ」ト云い、或は「法螺吹ほらふきだ」と云う。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私はこの犬の鉄面皮てつめんぴには、ひそかにあきれ、これを軽蔑さえしたのである。長ずるに及んで、いよいよこの犬の無能が暴露された。だいいち、形がよくない。
博戯あそびさまたげられた金持ち階級は、にわかにざわめいて悪口を口走る。——鉄面皮てつめんぴだの、おしかの、つんぼかのと。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日本男子鉄面皮てつめんぴなるも、そのがんに映じて醜なるものは醜にして、美なるものは美なるべし。既に醜美の判断を得たり、然らばすなわち何ぞその醜を去って美にかざるや。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
めて山本伯の九牛一毛きゅうぎゅういちもうなりとも功名心があり、粘着力があり、利慾心があり、かつその上に今少し鉄面皮てつめんぴであったなら、恐らく二葉亭は二葉亭四迷だけで一生を終らなかったであろう。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
実際支那人の言つたやうに「変らざるものよりして之を見れば」何ごとも変らないのに違ひない。僕もまた僕の小学時代には鉄面皮てつめんぴにも生薬屋きぐすりやへ行つて「半紙はんしを下さい」などと言つたものだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……わたしは、そうまで鉄面皮てつめんぴというものにはなれません。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうだ、一つ鉄面皮てつめんぴに出かけてみようか。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
来られない道理だ! いかに鉄面皮てつめんぴでも、幾多の肉親の頼みや故国の使命を裏切り、あまつさえ、神の御名おんなをこの国の幕府へ売って、囚徒の後家を妻にもらい
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無心の小児が父を共にして母をことにするの理由を問い、隣家には父母二人に限りて吾が家に一父二、三母あるは如何いかんなどと、不審を起こして詰問に及ぶときは、さすが鉄面皮てつめんぴ乃父だいふも答うるにことばなく
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)