酒匂さかわ)” の例文
興津おきつ川や酒匂さかわ川、安倍あべ川のやうに瀬が直ちに海へ注ぐ川は、川口にまで転石が磊々としてゐる。それには必ず水垢がついてゐる。
水垢を凝視す (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
尊氏はしかし何のためらいもなく、それらの一隊は元の箱根路へ返し、自身は自軍だけで、さらに酒匂さかわの岸を上流へ急ぎ出した。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも、昼すぎる頃に、三好の門弟が酒匂さかわ川で釣った鮎を持ってきた。釣り場の料金を払うだけあって、四五寸はあり、二百匹釣っていた。
釣り師の心境 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
で、今も申す通り、二日目の夕方に酒匂さかわの川を渡って、小田原の御城下に着いて、松屋という旅籠屋はたごや草鞋わらじをぬぐと、その晩に一つの事件が出来しゅったいしたんです
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
酒匂さかわ川を渡って城東には徳川家康の兵三万人、城北荻窪村には羽柴秀次、秀勝の二万人、城西水之尾附近には宇喜多秀家の八千人、城南湯本口には池田輝政
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
足柄路は酒匂さかわ川のほとりを関本に上り、苅野、矢倉沢を通って足柄峠を越え、鮎沢(いまの竹下)へ出る。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
酒匂さかわ河の蛇籠じゃかごに入れる石をひろいに来て居る老人だの小供だのの影が、ポツリポツリと見える。
冬の海 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
箱根火山彙かざんいを仰ぎ見て、酒匂さかわ川の上流に沿い、火山灰や、砂礫されきの堆積する駿河小山おやまから、御殿場を通り越したとき、富士は、どんより曇った、重苦しい水蒸気に呑まれて
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
隣りの酒匂さかわ村が隱岐の郷里で、はじめほんの一二ヶ月のつもりだつたので、自分の村の知合の農家を借りてゐたが、飯を食つてゐるところが表から見えるから始末が惡いとか
痴日 (旧字旧仮名) / 牧野信一(著)
が、翌日の彼らはもう酒匂さかわの上流を折れて足柄山あしがらやまにかかっているのを知っていた。——やがて地蔵堂を金時山きんときやまの北を峠越えに出ると、南へのぞむすぐ目のさきに
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ともかく川尻のちかくまで行つて見ようよ。——それとも、いつそ、思ひきつて、そこからバスに乘つて、小八幡こやはた酒匂さかわの方まで行つて見ようか、松濤園の下あたりまで……」
痴日 (旧字旧仮名) / 牧野信一(著)
「鎌倉の剛の者、江馬殿の身内みうち酒匂さかわ十太じゅうたこそ、仁王堂口を一番に乗っ取ったぞ」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……てまえは、酒匂さかわの宿でその騒ぎを知りました。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その右馬介は、尊氏の軍が酒匂さかわの駅に着いた日
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
義経は酒匂さかわとどめられた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)