蹴散けちら)” の例文
勝てば官軍、負けては賊の名をおわされて、降り積む雪を落花と蹴散けちらし。暗くなるまで波止場の肥料置場でここを読む。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「それから一目散いちもくさんに飛び出した。——懐中ふところの十手を取り出すわけにもいかないから、逃げの一手だ。石燈籠いしどうろう蹴散けちらして植込うえこみをくぐって、裏門を出るのが精いっぱい」
日光へでも行くらしい、男女おとこおんなの外国人の綺麗きれいな姿が、彼等の前をよこぎって行ったとき、お島は男に別れる自分の寂しさを蹴散けちらすように、そう云って、嘆美の声を放った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あわてゝ逃出すから、煙草盆を蹴散けちらかす、土瓶を踏毀ふみこわすものがあり、料理代を払ってく者は一人もありません、中に素早い者は料理番へ駈込んで鰆を三本かつぎ出す奴があります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人波ひとなみてる狹き道をば、容赦ようしやもなく蹴散けちらし、指して行衞は北鳥羽の方、いづこと問へど人は知らず、平家一門の邸宅ていたく、武士の宿所しゆくしよ、殘りなく火中にあれども消し止めんとする人の影見えず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
三代のあだを重ねたる關東武士くわんとうぶしが野馬のひづめ祖先そせん墳墓ふんぼ蹴散けちらさせて、一門おめ/\西海さいかいはてに迷ひ行く。とても流さん末の慫名うきなはいざ知らず、まのあたり百代までの恥辱なりと思はぬこそ是非なけれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
島の職工達は磯の小石を蹴散けちら
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)