踏反ふんぞ)” の例文
私は右隣にすわっている私の護衛の私立探偵を盗み見た。彼は踏反ふんぞり返って、眼をつぶっている。私はしっかり内ポケットを押えた。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
妹のすん子はその復讐ふくしゅうに姉の腹の上に片足をあげて踏反ふんぞり返っている。双方共寝た時の姿勢より九十度はたしかに廻転している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
医者が三月みつきと宣告したんだから、りきんでも踏反ふんぞり返っても三月経てばゴロゴロッとたん咽喉のどひっからんでのお陀仏様だぶつさま——とこう覚悟して置かにゃ虚偽うそだよ
襟うらにあかいのがちらりと覗いて、よりかかったさまに頬杖して半ばねむるようにしていました。ああ、寝着ねまきで居る……あの裾の下に、酒くさい大坊主が踏反ふんぞって。……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
現在俺の手に掛けた男が眼の前に踏反ふんぞッているのだ。何の恨が有っておれは此男を手に掛けたろう?
と云ううちに私は立上って、卓子テーブルの端に両手をいてお辞儀をした。しかし正木博士は平気でいた。お辞儀を返そうともしないまま悠々と椅子に踏反ふんぞり返って、葉巻の煙を思い切り高々と吹上げた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三束みたば五束いつたば附木つけぎを並べたのを前に置いて、手をいて、もつれ髪のうなじ清らかに、襟脚白く、女房がお辞儀をした、仰向けになって、踏反ふんぞって、泣寐入なきねいりに寐入ったらしい嬰児あかんぼが懐に
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松原の茶店のおんなの、振舞酒に酔い痴れて、別荘裏なる舫船に鼻唄で踏反ふんぞって一寝入りぐッと遣った。が、こんな者に松の露は掛るまい、夜気にこそぐられたように、むずむずと目覚めた六蔵。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)