賢者けんじゃ)” の例文
べん游侠ゆうきょうの徒、仲由ちゅうゆうあざなは子路という者が、近頃ちかごろ賢者けんじゃうわさも高い学匠がくしょう陬人すうひと孔丘こうきゅうはずかしめてくれようものと思い立った。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「鬼神のことは古今の聖人賢者けんじゃもみな言い伝えているのに、貴公ひとりが無いと言い張ることが出来るものか。論より証拠、わたしが即ち鬼である」
しかし聞かれた以上はどっちか片づけなければならん。どうでもいい事を、どうでもよくないように決断しろとせまらるる事は賢者けんじゃ愚物ぐぶつに対して払う租税である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつて佐藤春夫が云ったことに聾者ろうしゃ愚人ぐじんのように見え盲人もうじん賢者けんじゃのように見えるという説があった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
退しりぞけ、尊氏と和して、時局を収拾しゅうしゅうすべきであると、賢者けんじゃ顔して、堂上へ献言した、おかしげな小才子も、先頃にはあったという。ははははは。河内どのには、何と思われるな
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
モーゼや預言者の時代であったら、あの工科大学の学生は、国の賢者けんじゃのひとりとなったにちがいありません。それが、もし中世の時代だったら、おそらく、火あぶりにされたでしょうよ。
その人の気質によりていさめの法かわるべし。直諫するこそ本意なれども、正直に強くいさめても聞く人の耳にさからいて受け用いざれば益なし。名君めいくん賢者けんじゃならでは直諫ちょっかんによろしき人はまれなり。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
すでに七十さいをこしていると思われる当主九郎左衛門翁くろうざえもんおうの、賢者けんじゃを思わせるような風格に接し、その口から報徳社の精神と部落の歴史とをきくことができたのも、塾生たちの大きな喜びであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
賢者けんじゃが他人について知るよりも、愚者ぐしゃおのれについて知るほうが多いものゆえ、自分の病は自分で治さねばならぬ」
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)