薬師如来やくしにょらい)” の例文
ほとんど薬師如来やくしにょらいが来たか何ぞのように礼拝らいはいしてものを頼むという次第しだいで実に驚きまして、その翌六日午前二時パルテー駅出立
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
東堂が質に入れたのは、銅仏一躯いっく六方印ろくほういん一顆いっかとであった。銅仏は印度インドで鋳造した薬師如来やくしにょらいで、戴曼公たいまんこうの遺品である。六方印は六面に彫刻した遊印ゆういんである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
他に薬師如来やくしにょらいの傑作もあるが、観音の隆盛にはかなわない。だから推古天平室に観音の多いことは、直ちに推古天平時代の観音崇拝の勢力を暗示するとみてよいであろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この本尊である薬師如来やくしにょらいは、そもそも光明こうみょう皇后眼病平癒へいゆ祈願のためにと、ここの尼僧は説明してくれたと記憶するが、それで特に眼が大きく鋭く作られてあるのかと思う。
ふと見ると、内陣の深くは、赤い蜘蛛くもの巣がかがやいている。そして、剥落はくらくした金泥きんでい薬師如来やくしにょらいか何かの仏像の足元から、朱金の焔がメラメラと厨子ずしの一角をなめ上げているのでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから木立を隔てて見えるのは、月光の底に沈んでいる二十八柱の大伽藍だいがらん、僧行基ぎょうきのひらくという医王山薬師如来やくしにょらい広前ひろまえあたり、嫋々じょうじょうとしてもの淋しい遍路へんろりん寂寞せきばくをゆすって鳴る……。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)