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薄寒
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うすさむ
勘太郎の村から十丁ばかり
離れた所に
光明寺という寺があった。山を少し登りかけた深い
杉森の中にあって、
真夏の日中でもそこは
薄寒いほど暗くしんとしていた。
倫教は
巴里に比べて北へ寄つて居る
所為か、七月になつても
薄寒を覚える様な気候である。
巴里の様に
上衣を脱いでコルサアジユ
丈で歩く女を
未だ一人も見受けない。
月の
出が
夜毎おそくなるにつれて
其の光は段々
冴えて来た。
河風の
湿ツぽさが次第に強く感じられて来て
浴衣の
肌がいやに
薄寒くなつた。月はやがて人の起きて
居る
頃にはもう昇らなくなつた。
今日は土用中ながら
薄寒い日であった。朝は六十二三度しかなかった。