おい)” の例文
変るのはとしばかりで、いたずらに育った縞柄しまがらと、用い古るしたことうらめしい。琴はおいのまま床の間に立て掛けてある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「武器は、一纏ひとまとめに、荷駄として、おいを着せ、要所へ先へ送っておく。そして人間のみを後から配置すればよかろう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十三経注疏ちゅうそなんど本箱がずらりと並んだ、手習机を前に、ずしりと一杯に、座蒲団ざぶとんすわって、おいのかかった火桶を引寄せ、顔を見て、ふとった頬でニタニタと笑いながら、長閑のどか煙草たばこを吸ったあとで
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘は浮かぬ顔を、愛嬌あいきょうに傾けて、床の間を見る。じくむなしく落ちて、いたずらに余る黒壁の端を、たてって、欝金うこんおいが春を隠さず明らかである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)