さい)” の例文
母と姉とを非道に殺された私と父とは、不快なあさましい記憶から絶えず心をさいなまれながら、怏々おうおうとしてその日を暮して居りました。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ここにぼろぎれのように眠る男も、やはり此の身をさいなまずしては生きて行けない生活をしている。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
私はほんの僅かな借金が原因もとで、清水に長い年月さいなまれて来た。私はただ彼の奴隷として生き永らえたのだ。私は涙を呑んで堪え忍んだ。私は研究が可愛かったのである。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ちっとも恥かしいと思わなかったばかりでなく、もっともっと自分を恥かしめ、さいなみ苦しめてくれ……というように、白木しらきの位牌を二つながら抱き締めて、どんなにほおずりをして、接吻せっぷんしつつ
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし、翌日も、またその次の日も同じような皆の悪意が露骨ろこつで、病的になったぼくの神経をずたずたに切りさいなみます。あなたに、えないまま、海の荒れる日が、桑港サンフランシスコに着くまで、続きました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
父親にそうさいなまれるのを何か快しとするような笑いでもあります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自分の皇女が、過激派の手でさいなまれるのを見て居た廃帝の、心持ほどの心持を持たされた人が、世界にそれほど沢山存在したとは思われませんでした。
たちあな姫 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
父に別れてからは周囲は他人ばかりで、唯一の肉親である兄が却って白眼はくがんで見るのだ。只一人の同情者も持たない彼が、童心をさいなまれ、蝕ばまれて行った事がはっきり分るのだ。
たゞ、彼女自身、恐ろしい罪の審問しんもんを受けているように、心が千々にさいなまれた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)