芳芬ほうふん)” の例文
アメリカから買って帰った上等の香水をふりかけたにおだまからかすかながらきわめて上品な芳芬ほうふんを静かに部屋の中にまき散らしていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ひとり造化は富める者にわたくしせず、我家をめぐる百歩ばかりの庭園は雑草雑木四時芳芬ほうふんを吐いて不幸なる貧児を憂鬱ゆううつより救はんとす。花は何々ぞ。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あやしと見返れば、更に怪し! 芳芬ほうふん鼻をちて、一朶いちだ白百合しろゆりおほい人面じんめんごときが、満開のはなびらを垂れて肩にかかれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
旅姿も舞台へ出て来た名ある娘形のようで、汗にもほこりにもまみれず、芳芬ほうふんとして腋の下から青春が匂うのです。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
やがて芳芬ほうふんの激しい薬滴が布の上にたらされた。葉子は両手の脈所みゃくどころを医員に取られながら、そのにおいを薄気味わるくかいだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
激しい芳芬ほうふんと同時に盥の湯は血のような色に変った。嬰児はその中に浸された。暫くしてかすかな産声うぶごえが気息もつけない緊張の沈黙を破って細く響いた。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)